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第1114章
2023/04/07

なぜリモートから出社にシフトするのか(後編)

今週のコラムも、先週に引き続き、「なぜリモートから出社にシフトするのか」について、マネジメントの方々の視点で書いていきたいと思います。

タスク以上のことを教えられない

会社というものは、ビジネス上の目的があり、その実現のために業務を定義し、タスク化し、タスクをみなで分担してビジネスの目的を達成します。

そのため、ビジネス上の目的を達成するためには、究極的には各々が与えられたタスクを遂行するだけで良く、タスク完遂のための最低限のコミュニケーションが取れればそれで良い、ということになります。

ただ、ひたすら自分のタスクをこなすだけでは、更に上位の仕事を担当するためのスキルを獲得することが難しくなります。詳細設計と実装・構築をひたすらやっていても、要件定義を担えるスキルがなかなか得られないのと同じです。

近くに上位者がいれば、その人が社内でするいろんな会話を聞くことができます。また、話を小耳に挟む中で気になったことを質問することで、いまよりも上位の仕事のことが見えてきます。上位者もまた、質問を受ければ、今後のためにこれも話しておこうかなという気持ちになり、追加で説明をしてくれたりもします。

もちろん、リモートでも、聞きたいことを聞いて教えてもらう、ということは可能なのですが、上位者の会話が耳に入ってこないので、そもそも質問するネタが出てきません。上位者としても、質問されないことをわざわざ時間を取って伝えるのも変なので、これは他の人にも伝えておいた方がいいかな?とちらっと思ったとしても、まあいっかと流してしまいます。

一つ一つは小さなことですが、小さなことの毎日の積み重ねが、何年も経った時に大きなものとなります。

1人でタスクをこなせるから出社は必要ない、というお話しもよく聞きますが、マネージャーたちは、そういった、日々のちょっとした積み重ねの大切さが分かっているので、出社して欲しいなぁと思うわけです。

リスクを防げない

オフィスで働いていると、いろんな会話が耳に入ってきます。社員同士の会話だけでなく、社外の方との電話の声も聞こえてきます。そして、何気なく話しているそれらの内容を聞いていると、あれ、それは変じゃない?とか、その発言はやばい!といったことに気付くことがあります。

話している本人はベストな会話をしているつもりですが、経験値の高い人が聞くと、これは別の意味に受け取られる可能性がある、とか、これは相手の気分を害している、とか、それは法律や契約的にNG!といったことに気付けたりします。

そうすると、誤りをその場で指摘できたり、社外の人へのフォローを迅速にできたりするのですが、会話が聞こえない状態だと、そういったリスクを捕捉することができません。

また、オフィスにいると、ちょっとこれはどうかな?と思ったときに、周りに軽く相談することができるため、問題を未然に防ぐことができます。リモートで仕事をしていると、まあ、わざわざ聞くほどでもないかな、多分大丈夫だろう、と、誰かに相談するのが面倒になって、リスクを回避する機会を逸してしまいます。

もちろん、オフィスにいても、別の部屋で話していたら会話が聞こえませんので、その点ではリモートと変わりません。また、そもそもオフィスにいても相談しない人だと変わらないでしょう。オフィスにみながいたからといって、全てのリスクの発生を防ぐことはできません。

ただ、リスクを回避できる確率は格段に上がります。そのため、マネージャーとしては、みなが出社して同じ場所で働いていた方が、リスク対応が早くできて良いよね、と思うわけです。

こんな話をすると、会話を監視されているようで嫌だなぁと思われるかもしれません。私もかつてメンバーだった時、上位者に全ての会話を聞かれて、あとでダメ出しをたくさんされたときは本当に嫌でした。

でも、マネージャーとしては、会話を監視したいというわけではなく、願わくば、リスクが顕在化する前に手を打ちたい、それにより社員を守りたい、という気持ちでいることを、ここでお伝えしておきます。

育成できない

日本においては(海外のことをそこまで知っている訳ではありませんが、少なくとも日本では)、社会に出るまで、社会で生きていくための考え方や動き方を教える場がほとんどありません。

そのため、日本には、新入社員研修やOJTという仕組みがあり、主に20代を教育対象と捉え、長い時間をかけてじっくりと社員を育ててきました。

OJTの目的は、ただ仕事をこなせる様にするだけではありません。物事の見方や考え方、組織や社会や経済の捉え方などを共に働く中で伝え、社会人として長期に活躍していけるだけの地力を鍛えることが最大の目的です。

インターネットの普及により様々な情報が入手できるようになり、書籍や新聞を読んでいなくても、視野や視点を広げられるようになりました。しかし、インターネットのレコメンド機能が高度化し、オンデマンドサービスも普及したことにより、消費者が得られる情報に偏りが出てきてしまいました。好みに合う情報しか得られなくなると、人は視野や視点を変えることが難しくなります。

それを辛うじて是正していたのがOJTだったわけですが、コロナ禍に伴ってリモートワークが中心になったことにより、OJTによる教育システムが崩壊しました。

いまはまだ、目に見える何かが起こっているわけではありませんし、OJTを受ける側も、あったものが無くなったわけではないので特に不都合は感じていないと思いますが、社会人歴が長い人ほど、これは危機的な状況だなと思っています。

そのため、若手の方々の将来のためにと思い、会社に戻って来いと言っているわけです。

出社のメリットとは

思えば私がSEとして客先常駐をしていた頃、客先でも必ずチームで行動していました。帰社日もあり、全社員が集まるミーティングも毎月必ず開催されていました。

当時は、わざわざ帰社するなんて面倒だな、とか、一人で好きなようにさせてくれよ、と思っていたのですが、いまその頃を振り返ってみると、社員同士のFace to Faceのコミュニケーションが、知らず知らずのうちに自分を支えてくれていたんだろうなと思います。

人が集まると面倒なことも増えますが、人が集まるメリットも当然あります。今回のコラムで「○○ができない」という言い方をしてきましたが、裏を返せば以下のようなメリットがあると言い換えることができます。

  • 適切なタスク配分ができるようになる
  • 良好な人間関係を築ける
  • よりたくさんのことを教えられる
  • 様々なリスクを防げる
  • 若手を育成できる

もちろん、今回ご紹介したのはマネジメントの方々の意見であり、だから出社を是とするかといえばそうではありません。いろんな価値観、仕事観、人生観があり、人それぞれ考えがあっていいと思います。

どうしてもフルリモートでないと不都合がある、という方は、フルリモートの企業を探せばよいと思いますし、自分がマネジメント側になったときのことを考えて出社がある企業を選ぶのもよいと思います。いろんな考え方を知ったうえで、どうするかを考えて頂くのが良いと思い、今回は、記事として余り掲載されていないマネジメント側の視点でコラムを書かせていただきました。

今後、働き方がどうなっていくかは誰にも分かりません。海外でも、フルリモートと言っていた企業が突然フル出社になった例もあります。世の中は動き、企業も動きます。失敗して学び、方向転換をするのは人も企業も同じです。企業ごとに試行錯誤し、成功すれば続け、失敗すれば是正します。その繰り返しを経て徐々に企業の方針が決まり、社会も一定の方向に収束していきます。世の中や企業の動向をウォッチしつつ、ご自身なりの是とする生き方を選んでいただければと思います。

筆者 田中 祐介
コンサルタント実績
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