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コラム:転職の技術
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第1113章
2023/03/31

なぜリモートから出社にシフトするのか(前編)

コロナが二類から五類になるのを受けて、せっかくリモートワークが定着したにもかかわらず出社比率を高くする企業が増えてきました。

2023年3月現在、原則出社を決めた企業もあれば、何曜日と何曜日は出社、と決めた企業もあります。出社回数は厳密には決めないけれどもできれば2~3日は出社してね、と緩い方針を出す企業もあります。

ウィズコロナにより働き方が大きく変わり、アフターコロナはウィズコロナで確立したワークスタイルが定着すると見られていましたが、大方の予想に反して、ビフォーコロナに戻る企業も増えてきています。

それに伴い、働き方が悪化するので転職します、という方が増えてきています。せっかく働き易くなったのに、出社なんてたまったものじゃない、改悪する企業になんていたくないから転職しますって話です。

まあ、私どもは人材紹介会社ですから、転職したい人が増えることは悪いことではないです。ただ、転職活動に踏み切る前に、いま一度、なぜ出社を増やすというムーブメントが起こっているかを、マネジメント側の視点に立って考えてみるのもよいのではと思い、このコラムを書くことにしました。

働き易くなり、QOLが向上した

まず大前提として、コロナ禍によって強制的に行われたとはいえ、リモートワークがこれだけ普及したことはとても良いことだと私は思っています。

私自身、リモートワークの恩恵をかなり受けています。

私は自宅から会社までが遠く、子供もいるのですが、リモートワークができるようになったことで通勤時間がなくなり、物理的に家に居ることができるようにもなったので、仕事や家族に割り当てられる時間が多くなりました。

また、周りが静かなので、業務に集中できるというメリットも感じていますし、疲れた時にはソファーに座ったりして心身をリラックスさせることも自宅であれば可能です。夜遅くまで仕事をすることになってもすぐに寝ることができるので、翌日も元気に働くことができます。

このように、リモートワークにより働き易くなり、QOLも劇的に向上したと思っています。

それなのに、なぜ出社を増やすのか

リモートワークのメリットがそんなにあるのになぜ出社を増やすのか。企業により理由は異なると思いますが、いろいろな方々から聞いたお話しを参考に、考えられる理由を書いていきたいと思います。

ちなみにこの記事では、主にマネジメント側の視点で書き進めようと思っています。

理由は、出社を増やすことに対してネガティブな記事が既にたくさん出ていますが、そのほとんどがマネジメント側の考えや意見を汲んでいないと思ったからです。

個人的には、それはそれでよいと思っています。メディアは世の中を変え、新しい世界を作ることを使命としているので、「せっかくリモートワークという新しい世界が来たのに出社が増えるのは時代を逆行する行為である」「せっかく進んだ世の中になったのだから、このまま進めていこう」という意図が働いているのでしょう。それはそれで正しい行為だと思っています。

一方、マネジメント側の意見や思いを汲めていない記事が多いことには一抹の不安があります。記事の多くが、出社を求めるマネジメントは無能であると言い切っていて、その意見が多数を占めているような雰囲気を作っています。そのような状況だと、マネジメント側も自分が無能と思われたくないので、本音を言い辛いだろうと思っています。

その点、私はいろんな方から本音を聞く立場にあります。そして、マネジメントをされている方のほうが、リモートワークで仕事をすることの難しさや弊害についてお話しをされることが多いのも、転職のご支援を通じて知ることができています。

その、声に出せない声をお届けするのも、私どもだからこそできることなのかなと思い、ここでは敢えて、リモート/出社の善し悪しではなく、マネジメントの方々がなぜ出社を多くしたいと思っているのかを実際の声としてお届けしたいと思います。

メンバーに何を任せればよいかが分からない

とある企業のマネージャーの方が、「最近入ってきた人が自分の下についたものの、どんな仕事をどのくらい割り振ってよいか分からない」と嘆いておられました。

誰が何をどこまでできるのかは、それまでの経歴やアウトプットだけを見て判断できるものではありません。オフィスでの動き方や周りとの会話の仕方、表情やしぐさなどから、こういう仕事は向いてそう・向いてなさそうとか、こういう仕事は楽しそう/楽しくなさそうというのが分かってきます。

しかし、リモートワークをしていると、そういったアナログな情報が伝わってきません。任せてみたら及第点のアウトプットが出てくると、おっ、じゃあこれもと更にその人に任せることになるのですが、実はたくさん残業をしていたり、頭を抱えてノイローゼになりそうになりながらなんとか期日に間に合わせている、といったことも裏では発生したりしています。

その状態に気づかないまま仕事を振り続けていると、ある日突然、そのメンバーが倒れてしまったり辞めてしまったりします。メンバーに合った仕事を与えていたと思っていたマネージャーとしてはびっくりです。

それが1度ならず2度も3度も発生すると、さすがに自分の評価に影響があるので、マネージャーはメンバーに対して仕事を割り振るのが怖くなります。結果、マネージャー自身が仕事を抱え込む様になり、今度はマネージャーが疲弊してしまいます。

その様な状況を回避したり解消するために、マネージャーとメンバーを同じ場所で働かせよう、という判断になるわけです。

タスクの割り振り方を適正にしよう、というのが、出社を多くする目的の一つです。

良好な人間関係を築き辛い

オフィスにいると、仕事の合間にちょっとした雑談が行われます。その中で、お互いの人となりが分かってきて、徐々にお互いのコミュニケーションスタイルを確立していくことができます。

また、頻度高く話をしていると、小さなコミュニケーションギャップがいくつも発生しますが、相手の表情や仕草を見ながら、その人に何をどこまで言って良いかの勘所を掴むことで、その人とのほどよいコミュニケーションの仕方を調整していきます。

「良好な人間関係」と言うと抽象的過ぎて、それが何を指すのかが分かりづらいですが、良好な人間関係とは、お互いのコミュニケーションのスタイルが確立され、心理的障壁が比較的低い状態で話ができる関係性、と言えます。

逆に、良好な人間関係が構築できていない状態というのは、自分の発言が相手にどう受け取られるかが予想できない状態だと言えます。ネガティブに受け止められたり、ネガティブな反応をされたりする恐れがあるため、慎重に会話せざるを得なかったり、会話そのものを控える状態と言い換えることもできます。

もちろん、リモートワークでも良好な関係が築ける人もいれば、オフィスにいても良好な関係が築けない人もいます。

しかし、人の関係性というのは、接点の多さと偶然から良好になっていくものです。学生時代、同じ学年であっても、同じクラスの方がたくさんの人と仲良くなり、他のクラスだと仲良くなる人が少なかったですよね。

そもそも人間の生物としての強みは、共同生活を可能にする社交性・感受性と言語力です。それを遺憾なく発揮し、強固な人間関係を築いて強い組織を作るためには、皆が近くにいて話す状況が必要なため、オフィスでみんなで働こう、となるわけです。

リモートワークでも十分良好な関係ができているよ、という話も聞きますが、それは既に関係性ができている上での話であることがほとんどです。リモートの場合、関係性がそこまで築けていない人との関係性が深まるスピードは対面に比べて相対的に遅く、どうしてもコミュニケーションが特定のコミュニティに閉じてしまいがちです。結果、組織としての機能性が上がっていかず、ともすると下がってしまったりもします。

良好な人間関係を築き、組織の有機化を進めることも、出社を多くする狙いの一つといえます。

(後編へつづく)
※4月7日配信予定です

筆者 田中 祐介
コンサルタント実績
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