COLUMN
コラム:転職の技術
  1. IT転職リーベル ホーム
  2. コラム:転職の技術
  3. 伸び悩み成果が出ない時には
第1163章
2024/04/19

伸び悩み成果が出ない時には

早気(はやけ)

珍しく弓引きのアニメがあると聞いて、京都アニメーションの名作と言われる『ツルネ』を観ました。主人公が早気(はやけ)というものになって苦しんでいるところから始まり、それを克服していく過程が丁寧に描かれています。

私は大学時代にアーチェリーをやっていたのですが、あるときいきなり的を外すようになり、その後、かなり長い間スランプに陥っていました。ただ不器用なだけだと思っていたのですが、早気に悩む主人公やその他のキャラクターたちを見ているうちに、ああ、あれって早気っていう状態だったんだな、よくある話なんだなってことにいまさらながら気付きました。

早気になると辞めたくなる

早気になった初期の頃、これでうまくいっていたはずなのにと『良かった頃の自分』を追い、それに近づこうとしてますます当たらないという悪循環に陥っていました。早気になったのは一年生の冬で、的を射ち始めたのが夏でしたので、実力としてはまだまだ初心者に毛が生えた程度、良いと言ってもたかが知れています。でも、当時は、これがうまくいく型だと思い込み、その型に近づけることに力を注いでしまっていました。

そして、やばいくらいに的に当たらなくなり、同期たちが出している点数の半分くらいしか点数が出なくなったとき、ああ、俺って才能ないから辞めようかなと毎日思っていました。仲間といるのが好きだったので辞めはしなかったのですが、毎日部室に入り浸ってマンガを読み耽り、仲間と一緒に惰性で練習に参加する日々を過ごしていました。それまでの人生で、スポーツで優れた成果を残したことがなかったので、今度こそはと臨んだアーチェリーでしたが、ここでもダメなのかと、正直心が折れそうでした。

ただ、ここで諦めたら一生運動コンプレックスは克服できないと思い、本気で早気を治す覚悟を決めました。

自分を壊し、自分を再構築する

早気を治すために、ツルネの主人公は一つ一つを見直していくのですが、私もまた、成功体験を捨てて、一つ一つ自分を見直していきました。

まず、所作の前に自分の意識を見直すため、この競技は何者なのかという原点に立ち返りました。

当たり前のことを敢えて言いますが、アーチェリーは点数を競うスポーツです。72本もしくは144本の矢を打ち、一本0点〜10点の合計点で勝敗を競います。

なぜ敢えて原点を再認識するというまどろっこしいことをしたかですが、『いくら努力をしても、いくら理想通りに射てても、点数が出なければ負け』という厳しい現実に目を向ける必要があったからです。

『頑張った』
『綺麗に射てた』

点数が出ないときは心が弱るため、小さな達成感を積み重ねることで、逃げたいという心を奮い立たせることは必要です。しかし、それが続いてしまうと、頑張ることや、綺麗に射てたことに満足してしまい、ついには『頑張ったけど運がなかった』『自分は正しかったけど結果がついてこなかった』と、事実に目を背けて言い訳をするようになってしまいます。

しかし、競技というものは、勝つために行います。勝つためには点数が必要であり、点数が出なければいくら綺麗に射っても、いくら努力をしても意味がありません。

そもそも、点数が出ないということは、自分が理想としている射形のイメージが間違っているといえます。また、努力の方向性も間違っていると言っていいでしょう。『自分は頑張っている』『努力は間違っていない』と逃げる自分を認める必要があり、そのために、原点に立ち返らないといけなかったのです。

次に、『アーチェリーは点数を競う競技である』と定義したうえで、どのようにしたら高得点が出るかを考えました。これも当たり前の話と思われるかも知れませんが、『真ん中に当たるような射ち方を身につけ、それを安定的に繰り返せるようになる』と定義しました。

弓を1度引いてみると分かるのですが、実は弓を引くにはかなりの力が要ります。72本や144本を引き切るには、それを可能とする筋力と体力が必要なのです。疲れてしまうと矢は大きく的を外してしまいます。そのため、出来るだけ疲れない、それでいて安定的な射ち方を身につける必要があります。

加えて、安定した射形を保てなくなった時にリカバリーする術も身につける必要があります。一定の射形にしようと思っても、人間は機械ではないので、なかなか同じ射ち方を繰り返すことはできません。
一射一射の違いが誤差範囲であれば良いのですが、ときに大きくズレることもあります。その時に、真ん中に当てるのを諦めて射つのではなく、その射形からでも当たるようにすることが、競技で勝つためには必要です。

そのようなことを考えた結果、体力作りのためランニングをしたり、ダンベルを買って腕力を強化したり、筋トレをして全身の安定度を高めるようにしました。

また、同じ動作を繰り返すことに慣れるため、朝はラジオ体操から始まり、次にひげを剃り、顔を洗い、朝ご飯を食べる・・・・といった感じでルーチンを定めて、毎日それをこなすようにしました。

それらができて、ようやく射形の見直しです。弓の握り方はどのようなものが良いのか、どう握れば安定するのか、といったところから始まり、足の位置はどうか、身体の向きはどうか、弓を上げてから弦を引ききるまでのルートはどれが最適か、その間にどのように筋肉を使い、どのように呼吸をすれば良いのかを、『真っ直ぐ矢が飛ぶか』『再現性があるか』『出来るだけ力を使わずに引けるか』の3点をポイントとして、細分化した行動要素の一つ一つを試行錯誤しながら再構築していきました。

その結果、2年生の夏には同期と同じくらいの点数が出せるようになり、秋にはレギュラーにも選ばれるようになりました。そして、1年間の総決算である春のリーグ戦では、自己ベストを出してチームの勝利に貢献することができました。

この経験から、物事を始めた初期に歯車がうまく噛み合って成果が出たとしても、それは多分にやる気と元気によるものであり、まやかしの実力であると考えるべきということと、その後に自分のやり方を見つめ直し、自分のやり方を再構築して安定的に成果を出せるようにしていく必要があることを学びました。

伸び悩んだら自分を一度捨てること

その後、社会人になってからも、壁にぶつかる時がたくさんありました。プログラムが満足に組めない、ドキュメントがうまく作れない、ヒアリングがうまくできない、ファシリテーションがうまくいかない、担当した課題が解決できない、決めないといけないことが決められない、プロジェクトをうまく進められない・・・落ち込むこともたくさんありましたし、自己嫌悪に陥ったり、才能がないから辞めようかなと思ったこともかなりあります。

ただ、早気を克服した経験から、それは自分のちっぽけな成功体験にしがみついているだけなのでは?と思い直し、やり方を一から再構築するようにしてきました。それで凄く出来るようになったかと言えば、恥ずかしながらそうでもないのですが、どの仕事も人並みには出来るようになったと思っています。

これをお読みになっているみなさんが、もし成果が出ずに伸びずに悩んでおられるのであれば、一度思い切って、良いと思っているやり方を捨ててみてはいかがでしょうか。長く成果が出ない場合、根本が間違っている可能性が高く、ちょっとした改善を続けても焼け石に水の状態になってしまっているかも知れないからです。

人材紹介の仕事をしているなかで、いろいろな方のキャリアを見ていると、人生経験が長い人ほど自分の再構築が難しいことに気付かされます。年齢が高くなるほど新しい環境に適応するのが難しくなり、短期転職となってしまう方が多いのもその証左だと思っています。

自分を再構築するのは勇気が要ります。やり方を変えたら酷いことになるんじゃないかと、漠然とした不安に駆られるからです。でも、考えてみてほしいのです。すでに酷いことになっているのです。早気を克服するために1番必要なことは、既に酷い状態であることを認められず、こうすればきっとうまくいくと思い込んでしまっている自分を捨てることなのです。

思ったように仕事で成果を出せていない人は、年齢に関係なく、勇気を持って自分を再構築してみてください。

ただし、閉じこもらないこと

なお、自分を再構築しようとしても、自分の力だけ実現することは非常に難しいです。自分の意識を変えることや、自分自身を見つめ直し、やり方を再構築していくプロセスそのものは自分にしかできませんが、他人から見たら明らかなことも、自分には見えていないということがたくさんありますので、周囲の力をしっかりと使ってください。

一度自分が築き上げたものは、そう簡単には崩せません。いろいろ改善したつもりでも、実は微修正に留まっていて根本的な解決になっていない、というケースがほとんどです。初心に返ることが大事なのですが、そう簡単にはできないというのが、経験が豊富な方ほど陥る状態であると言えます。

自分が築き上げてきたものを否定されるような指摘を受けると、いや、それはやっているよと言いたくなりますし、余りに違うことを言われると怒りがこみ上げてきたりして、不機嫌さを露わにしたくなったりもします。でも、それをしてしまうと、あの人は何を言っても聞かないと思って周りの人がアドバイスをしてくれなくなってしまいます。

そうなると、結局自分の世界の中でぐるぐると同じことを繰り返すだけになってしまい、自分の再構築が実現できないため、『実るほど頭を垂れる稲穂かな』の精神で、周りに教えを乞うようにしてください。

筆者 田中 祐介
コンサルタント実績
#関連記事

関連記事

注目のキーワード: