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第991章
2020/09/04

年収1000万円に意味はあるのか

憧れの年収1000万円

年収。それは、転職活動をしているすべての人が直面する問題です。そして、多くの人が憧れを抱く年収が1000万円です。

その気持ちは私もよく分かります。私も年収240万円から社会人をスタートした者ですので、年収1000万円は雲の上の話でしたが、目標でもありました。そして、その世界が現実的に見えてくると、よし、もう少しだ!絶対に大台に乗せてやるぞ!とも思ったものです。キャリア上の目標は様々ですが、いつかは年収1000万円!というのは、多くの方の同意を得られるのではないでしょうか。

ただ、その年収1000万円にどれだけの価値があるのかは冷静に考える必要があります。というのも、仮に年収が700万円から1000万円になったからと言って、生活が劇的に豊かになるわけではないからです。また、年収1000万円にこだわるが故に判断を誤ったり、キャリアを崩してしまったりすることも少なくありません。それだけ「年収1000万円」というのは甘美な響きであり、同時に魔性を持つものとも言えます。

本日は、年収1000万の意味について改めて考えていきたいと思います。

年収1000万円の手取り額は何万円と同じ?

年収1000万円といっても、税金等のさまざまな控除により、手取り額はそれよりも少なくなります。また、年収が高くなると税率が上がって支払いが多くなり、国からの手当てが減ったり無くなったりもして、実は年収が1000万円未満の方よりも手取り額が少なくなってしまうことがあります。ここでは、年収1000万円の手取り額はいくらの年収の方と同じぐらいになるかを、控除や手当の減額分をもとに考えていきます。

税金

まずは税金です。ご存知の通り日本は累進課税であり、収入が上がると一定の割合で税率が上がります。

2020年8月時点では、年収900万円を境に大きく税率が変わります。年収が900万円以下であれば税率は23%ですが、年収が900万円を超えると33%と、なんと10%も税率が上がります。

その前の税率が変わるボーダーは695万円なのですが、その前後で3%程度しか変わらないのに比べると、その上昇率はばかにできません。消費税がいきなりのしかかるようなものです。所得税については注意が必要です。年収は確かに上がりますが、手取り金額は思ったより上がらないのです。

また、社会保険料などは年収に応じて一定の率が掛けられますので、実際はこの年収レンジだと手取りに大きな違いはなくなってしまいます。

公的補助

日本では、所得の低い家庭への補助が手厚く、所得の高い人がそれを負担する仕組みになっています。社会的弱者を守ること、特に、子供が親の低所得のために十分な教育を受けられないということが無いよう、近年は教育の無償化が進んでいたりもします。

この公的補助も、年収が上がるにつれてだんだん受けられなくなります。

例えば児童手当について、2020年8月時点では、年収が833.3万円を超えると、1人当たり月1万円~1万5千円の補助がなくなります。3歳未満の子供が2人いるとすると、年間36万円の補助が貰えない計算になります。

また、児童手当は中学生までの話となりますが、高校生の子供がいるご家庭については、高校無償化の話が出てきます。現時点では年収が910万円以上の場合、月額約1万円の補助が受けられなくなります。児童手当に比べると額は少ないですが、補助を受けられないことに変わりはありません。

現時点では保育園・幼稚園の無償化については所得制限がないのですが、将来制限がかかるかもしれないため要注意です。

年収1000万円で得られるものとは

では、年収が1000万円になって得られるものはなんでしょうか。1番は恐らく、源泉徴収票に1000万円、と書かれたのを見るときの満足感だと思います。

年収が1000万円以上の方というのは、日本人の上位約4~5%の高額所得者に入るそうです。いわばエリートと言えてしまうわけですが、自分もその一員になったんだと誇らしい気持ちになり、自信を得ることもできるでしょう。もし、それまでの人生の中で劣等感を抱いてきたとしたら、どうだ、見返してやったぞ!とも思うかもしれません。

また、周囲の見る目も変わります。自宅を購入しようと不動産屋にいけば、対応が急に丁寧になります。車を買おうとディーラーを訪問すれば、至れり尽せりの対応をしてくれます。ビジネス交流会、同窓会、合コンなど、あらゆるシーンで尊敬の眼差しを受けるようになります。

ただ、それらの実態にも目を向ける必要があります。不動産屋やディーラーからは金ヅルと思われているだけですし、尊敬の眼差しの裏には強い嫉妬があったりもします。裏を考えると案外良いものではなく、むしろマイナスが多かったりするのですが、少なくとも表面的には良い対応や見方をされるので、優越感に浸ることはできます。

また、再度転職するときには、手取り額ではなく支給額が提示年収の基準となりますので、年収が多い方がより良い条件の提示を受けることができる可能性が高くなります。そのため、年収は800万円よりは1000万円を貰っておいたほうがよいという実用的なメリットもあります。

それから、年金についてはどうか?と聞かれることがたまにあります。確かに年金は所得に応じて標準報酬額が変わってくるのですが、実は年収が750万円以上になると、貰える年金の額はほとんど変わらなくなりますので、ここでは気にしなくて良いと思います。

年収1000万にこだわって失うものとは

上記の通り、再度の転職をしない限りは、年収1000万円にそれほど大きなメリットはありません。それより気にしなければならないことは、1000万円にこだわることによって失うものです。

無駄に1000万円にこだわることで起こるデメリットの最たるものは、転職先企業の選択を間違えたり、良い転職先をみすみす逃してしまったりすることです。

まず、転職先企業の選択を間違えるパターンです。1000万円の年収提示があり、他が800万円台となると、年収1000万円にこだわる人は、当然1000万円の方に転職を決めます。

しかし、年収は上がったものの、やることや得られるスキルが変わらなかったりして、結局何のために転職したんだっけ、となり、短期で辞めてしまうことがよくあります。

もちろん、それでも家族のためにと残り続ける方もいるのですが、仕事におけるキャリアアップは望めず、場合によってはキャリアダウンになったりもしますので、もはやお金のために働くような人生になり下がってしまいます。自らのキャリアのために希望を持って転職活動をしていたはずなのに、いつのまにかお金の奴隷と化してしまうのがこの場合のデメリットです。

また、仕事内容も得られるキャリアも非常に良いのに、どうしても年収を1000万円から下げることができず、オファーを辞退してしまうケースもあります。このような方は、年収が下がることへの強い抵抗感をお持ちであるケースが非常に多く、自分は他とは違うんだというプライドであったり、負け組になってしまうという恐怖心であったりが原因となっています。

もちろん、市場価値はある程度年収に比例しますので、とにかく年収をあげれば自分の価値が上がる、という考え方はある意味間違ってはいません。私も長年この仕事をしていますが、年収1000万円オーバーの方を見ると、おっ、優秀そうだなとつい思ってしまいます。

ただ、その一瞬の注目は得られるものの、結局は中身がどうかを面接では見られますので、経験と年収のバランスが悪ければ、企業も経験を元に年収を弾き出してきます。先ほど、年収が高い方が転職活動時により良い条件の提示を受けることができる可能性が高くなると書きましたが、あくまで年収相応の経験を積んでいるという前提のもとであり、経験が年収相応でなければいくら現在年収が高くても提示年収は下がりますし、逆に年収が低くても年収以上の経験を積んでいれば、実力相応の高年収が提示されます。

そのため、提示年収が800~1000万円くらいの年収レンジであれば、年収よりも実を取った方が良いと私は思っています。

とはいえ、そのような状況になったときには人は必ず迷います。普通に年収が高く、やれることも良いといったオファーもありますし、逆に年収が低く、キャリア的にも選択すべきでないといったオファーもあります。どのような選択をすればよいかはケースバイケースですので、担当のコンサルタントにご相談くださいませ。

筆者 田中 祐介
コンサルタント実績
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