COLUMN
コラム:転職の技術
第868章
2018/11/09

社内SEの甘い罠(前編)

— バラ色の環境なんてそうそうない、メリット・デメリットをきちんと知ろう —

社内SE採用真っ盛り

この2~3年、急激に事業会社の情報システム部門(以下、社内SE)の募集が増えてきました。以前からも募集はあったのですが、システムのスピーディーなサービスインがより求められるようになり、ユーザでも使えるクラウドサービスが急速に充実してきたことも後押しとなって、大・中・小あらゆる事業会社で内製化が加速し、社内SEの採用ニーズが高まっています。

一方、社内SEになる人が増えたせいか、アンマッチや短期転職が激増しています。せっかく社内SEになったものの、全然イメージと違った、こんなはずではなかった、という声があちこちから聞こえてきており、結果として再転職のご相談に来られる方が増えています。

なぜこれほどアンマッチが増えているのかと考えたのですが、理由の一つに、社内SEのデメリットが余り認知されていないのが原因ではないかと思いました。

かくいう私もいまの会社に転職するとき、社内SEになることも考えていました。SEやコンサルタントといった外部者の立場ではできることに限界があるので、もっとビジネスに深く入り込み、それを中長期的視点で育てていきたいとか、顧客に振り回される立場だと心身ともにストレスフルになりがちなので、要件や期限をコントロールできる側に回りたいとか、事業会社の中にITおよびITベンダーを使いこなせる人が余り多くないので、自分が事業側のIT担当になればその橋渡しができて良いのでは、など、いろんなことを考えました。

そして、実際に社内SEの選考も受けたのですが、ある時点でふと、本当にこれでいいのかと思い、その道に進むのをやめました。

その後、いろいろな縁と偶然が重なって現在の会社に辿り着いたのですが、現職で人材紹介をし、様々な社内SEの方にお会いして、やっぱりあの時に考えたリスクは現実にあるんだなと実感しています。

もちろん、社内SEには、かつて私が考えたようなメリットはあります。そして、諸々フィットして社内SEとして元気に働いている方もたくさんいますし、私自身も現職では社内SEも兼任しているため、その存在意義ややりがいなども理解しています。

ただ、物事には必ず光と影があります。社内SEのメリットはあちこちで散々喧伝されていますので、ここでは社内SEのリスクと、それを確かめるためのポイントを、前中後編の3部構成でお伝えしていきます。

ITって何を指してるの?

事業会社にもっともありがちなのは、「IT」の捉え方が非常に広く、かつ曖昧であるということです。事業に対する思い入れが深い分、それ以外の領域についての関心が薄く、ざっくりと捉えがちです。

アプリとインフラの区別がついていない、というくらいはむしろスタンダート。プリンタ、PC、携帯電話、ICカードといった「電気で動くもの」は全てITと思っている方が大多数だと思って頂いても大袈裟ではありません。IT業界経験者にとっては全く信じられない話ですが、iPhoneが動かない、Windowsのパスワードを忘れた、印刷エラーが起こった、なども全てITの問題と思う方が意外に多いのです。

実際、エンジニアとしてバリバリプログラミングをしてきた方が社内SEとして入社したものの、情報機器が使えない方向けのヘルプデスクであったり、OSやソフトウェアのインストール作業であったり、故障機器の交換であったりが大半だった、ということをお聞きしたことがあります。電気で動くものは全てIT、と認識されていた典型的な例です。

また、こちらも実際にあった話なのですが、システム基盤の開発をしていたアプリケーション技術者が社内SEとして入社したのち、システム企画であったり、サーバやネットワークなどの純粋なインフラ業務であったりと、これまでの経験を余り生かせない仕事ばかり任されたということもありました。こちらはアプリとインフラの区別がついておらず、何かしらITをやっていたらITのことなら何でもできるだろう、と思われていた例です。この会社、どこぞのよく分からない会社ではなく、ゴールデンタイムにCMをバンバン打っているような、誰もが知っている超有名メーカーです。

このように、事業会社の方々のITリテラシーは、みなさんが思っている以上にばらばらで、IT業界経験者からすると常識外と思えるケースも少なくありません。そのため、その事業会社の社内SEというのは何を期待されているのか、そもそもITをどう捉えているのかをしっかり確認しましょう。

将来やらねば、の将来はいつのこと?

事業会社にいる人たちは、IT業界にいる人とは全く異なる時間軸で生きています。SIerやコンサルティングファームの方は常に時間と戦ってきていますので、時間に対する感度が高く、期限順守の意識があり、時間の使い方が上手です。

一方、事業会社は一般的に、既存事業を継続的に行っていくことが仕事の大半を占めます。そして、それが収益の柱になっているため、それ以外の新規のことやイレギュラーなことへの優先順位が低くなり、対応が延び延びになりがちです。また、仮にやろうと思っていたことが遅れそうな場合も、自社内で調整できることが多いため、ある限定された期間に、時間をうまく使って成果を出す、という意識が余り高くないことが多いです。これは私自身がコンサルタントとして仕事をしていた時にも、自社と顧客との大きな差として認識していました。

社内SEになりたいという方の大多数は、本音ではこのゆったりとした時間感覚に身を任せたい、ワークライフバランスを良くしたいと思われています。それでいえば、確かにSIerやコンサルティングファームにいるときよりは調整がききやすくなると私も思います。

問題は、やりたいと思っていることについて、面接中に「それはあなたの言う通りで、いまは出来ていないがやらねばならないと思っている」ということを面接官が話した時です。IT業界にいた方であれば、将来やりたいというのは遅くとも2~3年後だろうと想像しますが、時間感覚が全く異なるため、もしかしたら10年、下手をすると2、30年後のことを指しているかも知れないのです。

面接の質問で、時間感覚が分かるエピソードがあります。某IT系事業会社の面接で今後やりたいことを話してと言われて「1年後は・・・、3年後は・・・、5年後は・・・」と話して、面接官から「5年後なんて考えても無駄でしょ。だって、5年後なんて全然違った世界になってるんだから」言われた方がいるのですが、その方が非IT系事業会社の面接を受けたとき、「10年後、20年後にやりたいことを話して」と質問されて戸惑った、ということがありました。

IT業界は変遷が早く、逆にIT以外の業界はR&Dからサービスリリースするまでの期間が長い、というのも一因かと思いますが、いずれにしても異なる時間軸のなかで生きていることがほとんどです。

そのため、「それはいつかやりたいんだよね」という話を面接官が口にしたときは、それはいつのことを指しているのか、という時間軸を聞いておきましょう。そうしないと、その「いつかはやりたい」をやりたくて入ったのに、入社後に「それは10年後かな」なんて言われたりしかねません。(中編に続く

筆者 田中 祐介
コンサルタント実績
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