COLUMN
コラム:転職の技術
第717章
2015/10/02

Vision & Hard Work

— ノーベル賞受賞者から学ぶキャリア構築のポイント —

「VW」が成功の秘訣?!

「『VW』が成功の秘訣だと教えていただいた」

「VW」と聞いて、いま話題になっている某自動車メーカーのことを思い浮かべた方も少なくないと思いますが、これは「Vision & Hard Work」の略だとのこと。iPS細胞の研究でノーベル賞を受賞した山中伸弥教授が米国留学で教わったことだそうです。

世界一働いていると思われる日本人がアメリカ人からハードワークを教わるというのは少々違和感がありますが、実は米国に限らず海外でも、ホワイトカラー層はハードワークの方が多いそうです。

それはさておき、この「Vision & Hard Work」を教わり、それを実践した山中教授の生き方に、キャリア構築のポイントがありそうです。

ビジョンに一貫性を持たせ、洗練させ、行動を変化させる

山中教授は、元々は整形外科医からキャリアをスタートさせています。学生時代は柔道やラグビーをしていて、ケガや骨折を何度も経験し、その都度整形外科のお世話になっていたため、医学部卒業後は、自然と整形外科医への道を歩んでいたそうです。

しかし、実際に整形外科医になってみて、脊髄損傷などの、どんなに腕のいい整形外科医でもどうすることも出来ない患者がいるのを目の当たりにし、一つのビジョンを持つようになります。

「脊髄損傷の患者の様に、今は治せない人を将来治せるようにしたい」

そして山中教授は行動を変化させます。2年間研修医として勤めたのち、基礎医学の研究が必要と考えて大学院に入学、米国留学にて万能細胞であるES細胞に出会い、受精卵を使わずに万能細胞を作り出すための研究を重ね、ついに人間の皮膚からiPS細胞を作り出すことに成功したそうです。

「整形外科医」と「iPS細胞の研究者」は、一見すると繋がりませんが、山中教授の中では、「人を治したい」という一貫したビジョンがあり、そのテーマに合わせて行動を変えてきたに過ぎません。一貫したビジョンが、山中教授の成功を支えた一つのファクターと言うことが出来ます。

更に注目すべきは、ビジョンがだんだん洗練されている点と、ビジョンが行動レベルに落ちている点です。

ときどき誤解している方がおられるのですが、「ビジョンに一貫性を持たせる=一度決めたビジョンを変更してはならない」ではありません。ビジョンは変更可能であり、洗練させることが出来るものと考えています。

このケースで言えば、「治したい」という思いは不変ですが、その対象が「怪我をした人」から「脊髄損傷など重症の人」になり、いまは「怪我だけでなく病気の人」にまで広がっています。表現を変えて言えば、対象が「目の前の人」から「より多くの人」になり、現在では「すべての人」へと広がっています。

そもそもビジョンというものは、不変部分と可変部分に分ける事が出来ます。不変部分は、人や組織や社会に対する想いなど、可変部分は、その対象や方法などと考えています。そして可変部分をより洗練させることで、より高い成果を上げることが出来る様になります。

また、ビジョンが行動レベルに落ちている、という点については、このケースで言えば、大学院に入って基礎研究を始めたことや、留学で得た知見を自らの研究テーマにしたことなどが挙げられます。

ビジョンの不変部分に一貫性を持たせつつ、可変部分を洗練させ、ビジョン達成のために、いまから出来るくらいの行動レベルに落とし込むこと、また、ビジョンの可変部分の洗練度合いに応じて行動を変化させること。これがキャリア構築を成功に導くポイントと言えるでしょう。

Long WorkではなくHard Workをする

もう一つのキャリア構築のポイントは「Hard Work」です。

米国留学から帰ってきたのち、早速研究を始めたものの、周囲に自分の研究が理解されず、逃げ出す一歩手前まで苦しんだ時期もあった、と山中教授は述懐しています。

また、iPS細胞の臨床研究の第一人者で、iPS細胞による網膜の置き換えに成功した理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダーも、周りから「網膜の再生は無理」と言われ続けたそうです。

これのどこがハードワークなの?と思われるかも知れませんが、私は、ハードワークとロングワーク(長時間労働)はイコールではないと考えています。

誰もやったことがなく、周囲の理解が得られない状況下で、誰にも頼ることが出来ずに、それでも自分を信じてビジョン達成に全力を尽くすこと。それこそがHard(苦しみながらも)Work(目的達成のために全力を尽くす)といえます。

誰もやったことがなく、周りの理解を得られず、頼ることも出来ない仕事は、結果としてロングワークになりがちです。そのため、ハードワーク=長時間労働と考えてしまう方が多いですが、ロングワークなくビジョンが達成できるのであれば、それに越したことはないです。

ただ、ロングワークをせずとも出来てしまう様な仕事は、それほどチャレンジングな仕事ではない可能性も否定出来ません。この微妙なニュアンスをお伝えることは非常に難しいのですが、少なくとも、山中教授や高橋プロジェクトリーダーをはじめ、高い成果を出すキャリアを築いている方は、いろいろな意味合いを含めた「ハードワーク」をしてきておられることは、事実として認識しておく必要があります。

Vision & Hard Workを続けるために

Vision & Hard Workを意識し続けるというのは、現実的にはなかなか難しくはあります。私自身、このようなコラムを書きながらも、ついつい日々の業務に追われてしまい、意識出来なくなってしまうことも少なくありません。

そんなときには、ちょっと古めの歌ですが、『それが大事』という歌を口ずさむ様にしています。元々は恋愛の歌なのですが、サビの部分は恋愛に限らず、いろんなシーンに応用できます。以下、サビの部分だけ抜粋します。

『負けないこと 投げださないこと 逃げ出さないこと 信じ抜くこと
ダメになりそうなとき それが一番大事
負けないこと 投げださないこと 逃げ出さないこと 信じ抜くこと
涙見せてもいいよ それを忘れなければ』

これを今回のテーマに合わせて解釈しますと、以下の様になります。

  • 周囲から何を言われても負けず
  • 上手くいかなくても投げ出さず
  • 心が折れそうになっても逃げ出さず
  • 自分のビジョンを信じ抜いて
  • ハードにワークし続けること

これがVision & Hard Workを継続させ、キャリア構築を成功させる秘訣だと私は思います。歌の好き嫌いはあると思いますが、日々の業務に追われ、なかなかビジョンを意識することができず、ただのロングワークになってしまっている時は、試しに口ずさんでみてください。意外に元気と勇気が湧いてきて、「Vision & Hard Workで頑張ろう!」という気持ちになりますので。

<参考1>2015年9月20日(日)読売新聞 関西版 16,17面より
<参考2>作詞・作曲:立川俊之 編曲:大事MANブラザーズバンド&渡辺禎史 1991年 大事MANブラザーズバンドの『それが大事』から引用

筆者 田中 祐介
コンサルタント実績
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