COLUMN
コラム:転職の技術
第1142章
2023/11/10

自分の考えを表現する

私が中学生の頃、国語の授業で、ある文章に対して自分がどう思ったのかを話すことがありました。

私はいろんな思いを持ってはいたのですが、そもそも感情は複雑なもので、文章を引用して抜き出し、だからこういう感情になったとシンプルに答えることに疑問を持っていました。また、仮にそれを説明しようとしても、言葉だけでは表現しきれず陳腐にしかならないとも思っていたため、この問いに答えたくありませんでした。

しかし、そんな時に限って先生に当てられてしまうもの。「君はどう思ったかな」と問われた私は、どう答えるべきかと考えた結果、「おもしろいと思いました」とだけ答えました。

さすがに先生、怒るかな、と思いつつ、怒られたら怒られたで、自分がもやもやしていることをぶつけてみようかなと思っていました。しかし、意外に先生は「そうやな、君はおもしろかったと思ったんやな。それも立派な君の感想やな」とにこやかに答えられました。

そして、こう続けられました。

「でも、それだけだと、君が考えていることが伝わらないよな。どういうところが面白かったのか、どうしてそう感じたのかを言葉にして欲しいんだよ。せっかく君がいろいろ考えたり感じたりしているのに、いまの答え方だと、周りにはそれが全然伝わらない。それってもったいないことじゃないかな。国語というのは、自分の考えを相手に伝える術を学ぶものなんだ。もう少しだけ、君がそう思った理由をみんなに話してくれるかな。」

それで私は、なるほど、国語というのはそういうのを学ぶものなんだなと、中学3年生にもなってやっと理解しました。「おもしろかった」も結論ではあるので間違ってはいない。でも、質問者が聞きたかったのは結論だけではなく、その感想に至ったプロセスを知りたかった、更に踏み込んで言えば、私という人を深く知りたかったんだなということに気付きました。

仕事も同じ

仕事でも、聞かれたことに短くしか答えない場合、その考えに至ったプロセスが相手に全く伝わりません。

社会人になりたての頃、要するに何だ?結論から言え!と上司に口酸っぱく言われます。そのため、結論だけ話すようになるのですが、今度は、それだけじゃわからん!ちゃんと説明しろ!と言われます。そしてまた説明をすると、要するになんだ!と言われてまた混乱する・・・というのを繰り返したりします。

そのようなやりとりを続けていく中で、適切なボリュームで回答ができるようになっていきますよね。結論から伝えつつ、結論に至るまでのプロセスを丁寧に話す。仕事をしていれば、習得スピードの差はあれども、自然に身についていくスキルだと思います。

面接も同じ

面接では、面接官からいろんな質問を受けます。それに対して答えていく訳ですが、このシチュエーション、上記の国語の授業に似ていますし、普段、仕事をしている際に求められる質疑応答と同じなんですよね。

それなのに、面接になると、何故か仕事でできていることを忘れて、ただ短く答えてしまって回答を終える人が少なくありません。

例えば、この学校と学科を選んだ理由を教えてください、という質問があったとします。

仮に、その人が情報系の学科に行っていれば、回答としては「ITに興味があったからです」でも間違いではありません。事実であり、正しい回答でしょう。

でも、回答がこれだけだと、何があって、何を感じて、何を考えて、どのような価値基準で情報系の学科に行く決断をしたのかが分かりません。

ITに興味があったであろうことは、学科名を見れば分かりますし、ITの仕事に従事していることからも容易に想像できます。面接官が知りたいのは、なぜそこに至ったか、です。そこを聞くことで、どのような考えや人柄の方なのかをイメージしたい訳です。

ただ結論を言うだけでなく、どうしてそう考えたのか、どのような背景があってそう考えたのか。国語の授業では、シチュエーションを想像し、想像の根拠となる文章を抜き出し、結論を伝えます。それと同じように、シチュエーションを思い出し、判断の根拠となる事象や考えを言葉にして、結論とともに相手に伝えればよいのです。

面接で、質問に対して答えているはずなのに、なぜか面接が通過しない、コミュニケーションスキル不足と言われてしまう方は、端的に答えすぎていないか、きちんとご自身の経験や考えや行動を伝えられているかを見直してみてください。

筆者 田中 祐介
コンサルタント実績
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