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第1107章
2023/02/17

『ゆるい職場』が原因? 不安型転職との向き合い方

先日本屋で『ゆるい職場—若者の不安の知られざる理由』(古屋星斗著)という本を見つけ、つい購入してしまいました。というのも、転職エージェントとして日々転職者と向き合っていて、特に20代を中心とした若手にとってはゆるい職場が原因となる転職もあるのでは…?と薄々感じることがあったからです。そして本著を読んで、昨今の職場環境の変化や若手のキャリア市場における動向がある程度掴めたような気がしました。今回はこの『ゆるい職場—若者の不安の知られざる理由』の内容を元に、就労環境の変化や若手のキャリア意識の変化をお伝えしつつ、これらに対する転職エージェントとしての向き合い方について考えてみたいと思います。

大手企業における早期離職率の上昇

まず、若手のキャリアでよく議論となる早期離職率(初職就職後3年以内離職)について、厚生労働省が毎年公表している調査によると、全体としてはリーマンショックで大きく低下した後はほぼ横ばいの数値となっています。しかし従業員数1000人以上の大手企業とそれ以外に分けて見てみると、なんと大手企業はリーマンショック以降、コロナショックで影響を受けた年を除き、早期離職率は上昇傾向にありました。
この現象の背景にあるのはキャリア観の変化や仕事の価値観の変容だけでなく、職場運営のルールの変化にもあると著者は述べています。

就労環境の改善

ではどのように職場運営のルールが変化し、就労環境が変わってきたのかというと、まず大きく変化が起こったのは2015年に若者雇用促進法が施行されたことです。これは若者の労働環境を向上させる目的で施行され、平均勤続年数や残業時間、有給取得日数など職場情報の積極的提供や若手の雇用管理が優良な中小企業を認定する制度などを含む法律です。そして、2018年には働き方改革関連法により、労働時間法令の大きな見直し、雇用形態に関わらない公正な待遇の確保などの改革が起こりました。これにより企業は残業時間削減の取り組みをおこなわざるをえない状況となりました。最近では2020年にパワーハラスメント防止法も施行され、職場における上司・先輩と部下のコミュニケーションの枠組みも変化しました。

その結果、労働時間は減少し、職場で上司に叱責されたことがない方も増え、職場環境は改善されてきていると言えるようです。しかし皮肉にも、大手企業を筆頭に職場環境を改善してきた結果、職場環境が改善された大手企業での早期離職率が上昇傾向にあるのでは、と著者は指摘しています。

不満型転職から不安型転職へ

職場環境が改善されたのに、早期離職をする人が増えている、というのは一見不思議にも感じますが、若手の転職が「不満型転職」から「不安型転職」へと変わってきているのではと著者は考察しています。これまでは職場が嫌で上司と合わないことや残業時間の多さが「不満」で転職するというケースが多かったかもしれません。しかしこういった従来の不満型転職以外にも、成長スピードが遅い、このままでは他社では通用しない人材になってしまう等の「不安」が理由で転職するケースが増えてきている、というのです。

実際に若手の転職支援では、成長スピードの遅さや自社でしか通用しないスキルに不安を抱いて転職活動を開始し、最終的には成長スピードの速さや汎用的なスキルの獲得といった軸で転職先を決められる方が多いように思います。

転職希望者の現在地を示し、目的地までの道筋を一緒に考える

このような不安型転職が増えている状況において、IT業界専門の転職エージェントとしてできることは何でしょうか。それはIT業界における転職希望者の現在地を示し、目的地までの道筋を一緒に考えることではないかと私は思っています。自分自身が特定のIT企業に属している、つまりIT業界の中にいる方にとっては自分のいる地点からの景色しか見えません。そのためIT業界全体の中で自分自身がどこにいるのか、自分の現在地を適切に把握できている方は多くありません。しかし、IT業界専門の転職エージェントはIT業界全体を熟知しているけれどもIT業界には属しません。そんな立場の転職エージェントだからこそ客観的にIT業界全体の中で転職希望者がどこに位置するのかを理解することができます。そして、俯瞰的視点で転職希望者の方にも正しい現在地を示し、目的地までの距離を明確にすること、そしてそこに辿り着くにはどうすれば良いのかを一緒に考えることで、転職希望者は今何をするべきかが見えてくるのではないかと思います。不安は先が見えない状態でこそ大きくなりがちなので、一歩先のやるべきことが見えるだけでも少しは不安の解消につながるのではないでしょうか。結果、転職するにしても、転職しないにしても、転職希望者のキャリアにとってプラスになれば転職エージェント冥利に尽きます。

ただし、過去に考えた目的地も絶対ではないので、状況に応じて柔軟にアップデートしていき、そのときどきに合わせてベストな道筋を考え続けることも大事です。ぜひ信頼の置ける転職エージェントを見つけ、長期的に良い関係を築いていただければと思います。

参考文献: 中央公論新社 『ゆるい職場-若者の不安の知られざる理由』 古屋星斗著

筆者 橋本 怜奈
コンサルタント実績
インタビュー記事
資格
  • 国家資格 キャリアコンサルタント
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