COLUMN
コラム:転職の技術
第919章
2019/08/09

先入観と仮説の違い

— 自らの目で事実を確かめる —

噂は事実か

「この企業の噂は聞いていて、余り評判が良くないので受けません」

以前に比べて口コミサイトも発達してきていますし、身近で転職する方も増えてきたことから、面談時にこのようなお話を聞くことが増えてきました。大きな決断をするときは、きちんと情報収集してから決断をすべきと思いますので、いろんな情報をもとに自分の考えを持つことは大事だと思います。

一方で、「この人のやりたいことはこの企業なら叶えられるのに勿体ないな」「この人はこの企業の社風にあっているのにな」と思うこともよくあります。私どもは企業に関する情報を様々な手段で手に入れており、ポジティブな情報もネガティブな情報も持っています。また、全体的にはこうだが一部こういうこともある、というのも掴んでおり、それらを総合的に考えてその方に合うかを考えてご提案しているのですが、噂を事実と捉え、拒否反応を示される方が多いのが実情です。

仮説は良いが、先入観は危険

前述の通り、私は情報収集をすることは良いことだと思っています。ただ、それは仮説作りに有効だから、というのが理由であって、先入観を作ることは良いと思っていません。自分で収集した情報が絶対に正しいと思うことは先入観であり、仮説とは違います。

先入観も仮説も、情報を収集して、その対象の理解を深めるというプロセスは変わりません。では、先入観と仮説は何が違うのでしょうか。

それは、検証をするかしないかの違いです。そして検証とは、自らの目で事実を見極めることです。

先入観は日常にも溢れています。あの人はこういう人だ、あの企業はこういう企業だ、なんていう話は、会社の中でも電車の中でもカフェの中でも、ちょっと耳を澄ませば聞こえてきます。

そもそも人間は、類型化して物事を記憶するため、頭の中は先入観だらけです。そのため、会話の中に先入観を含んだ話が出てくることはむしろ記憶の仕組み上、当たり前と言えます。

そして、それが当たり前になってしまっているために、人は先入観が事実であると思いがちです。「あの人はこういう人だから、きっとなにも考えていない」「あの人の性格からして、きっと失敗する」といったことは、今日1日を振り返ってもひとつくらいはあったのではないでしょうか。

その一方で、「どう思うか聞いてみたら意外にしっかり考えていた」「任せてみたらうまくいった」ということもよくあります。そのときに人は、先入観を持っていたことに気づきます。もちろん、過去の傾向から未来を予測したわけですが、予測はあくまで予測です。予測を事実と断定するのが先入観、予測は予測にしか過ぎず、実際どうかを確かめる必要があると考えるのが仮説と言えます。

仮説を自ら検証する

と、偉そうなことを申しておりますが、実は私自身、バリバリの先入観を持って転職活動をしていました。特にコンサルティングファームについては、「無駄に偉そう」「絵に描いた餅」「金にならなければ逃げる」といった先入観を持っており、受ける気は全くありませんでした。

ただ、当時の担当エージェントから、「コンサルは嫌いと聞きましたが、ここはあっていると思う」という話と、その理由をきちんと説明して頂いたので、じゃあ確かめてみようと思い、受けて、入社することになりました。

そんな自身の経験もあり、「そう思うかも知れないけれど、受けて確かめてみては」というお話をさせて頂いております。

もちろん、明らかに合わない企業やポジションはお勧めしません。就職活動と違って転職活動は働きながらすることになりますので、無駄は出来るだけ避けねばなりません。また、面接官も忙しい合間を縫って面接に対応してくださるわけで、その点でも無駄な面接は避けるべきです。

確かに、面接に行ってみたらやっぱり想定通り合わなかった、ということもあります。この場合、結果として無駄な面接に出向いたことになります。

ただ、それはあくまで検証をした結果です。合うかも知れない可能性があった中で合わないことが事実として分かったわけで、白黒をはっきりさせたという意味でも、面接に出向いた価値はあったと言えます。

検証ができたら、その後に迷いが生じることはありません。もしかしたらあっちの方が良かったかも、と将来考えてしまう可能性を断ち切ることは、ご自身の歩みを確かで力強いものにします。

自分の目で確かめる

今回は、転職活動の話をベースに、先入観で判断するのではなく、あくまで情報は仮説とし、自らの目で検証しましょう、という話をさせて頂きましたが、これは転職活動に限らない話です。

私自身も、多くの方をご支援させて頂いているため、この人はきっとこういう人だろうな、こんなキャリアがいいんだろうな、ここには受かるだろうな、ここは受からないだろうな、といったことがどうしても頭に浮かんでしまいます。

でも、それはあくまで仮説にしか過ぎず、予測としてはそうかも知れないが、可能性は他にもあるはずだと自らを戒めるようにしています。

きっとみなさんも、経験をすればするほど予測の精度が上がっていると思いますし、人の見方についても、この人はこういう人だからこう対応しよう、という考えが瞬時に浮かぶようになってきていると思います。

でも、それは経験に基づく予測にしか過ぎません。あくまで仮説として、目の前の事象なり人なりをしっかりと見つめて、自らの目と頭で検証するようにして頂ければと思います。そうすることで、結果的により精度の高い予測や判断ができるようになり、良い選択をして頂けると思います。

筆者 田中 祐介
コンサルタント実績
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