
前回の私のコラムでは、学校公開のときに参加した大学院の教授の特別講演でマイクロアグレッションというものを知り、気付きを得たことを書きました。実は、もう一つ印象に残っているトピックがありました。それがダブルバインドというものです。こちらの言葉は、ほんのたまに職場でも話題に上がることがあるのですが、それが何かを真剣に考えたことがなかったので、今回は自分の理解も兼ねてダブルバインドについて書きたいと思います。
ダブルバインドとは
ダブルバインドというのは、一方に従えば他方に従わないことになり、他方を選べば一方に従わないことになる、といったことや、やれと言われたからやったのに怒られる、という、矛盾を孕んだメッセージのことを指すそうです。
例えば、「言われなくても自分から勉強しなさい!」という言葉。誰しも一度は耳にしたことがあると思います。大抵、はーいと言いながら勉強を始める訳ですが、ここで勉強を始めると、言われなくてもやったことにはなりません。かといって勉強をしないとなると更に怒られます。どちらにしても怒られる、という状態。これが、ダブルバインドの状態にあると言うそうです。
また、「もう勝手にしなさい!」という言葉もダブルバインドです。勝手にしていいなら勝手にしよう、と思って好きなようにしていたら、「いい加減にしなさい!」と更に怒られてしまいます。一見、選択肢を与えられたように見えて、実は選択の余地がない、というのもダブルバインドと言うそうです。
職場でも発生するダブルバインドの例
前述の例は家庭を題材にしましたが、職場でもダブルバインドは発生します。
例えば、「分からないことはなんでも聞いてね」と言われて聞きに行ったのに、「そんなのは自分で考えなさい!」と言われるとか、「任せた!」と言われたのに「なんでこんなことしたんだ!」と怒られる、というのはよくありますよね。
また、部長は「残業はするな」と怒るのに、課長は「プロならタスクを完遂してから帰れ」みたいなのもよくあるパターンです。どっちの言うことを聞いても評価が下がる状況となり、どうして良いか分からなくなります。
選択の余地がないダブルバインドの例としては、「帰ってもいいよ。頑張った人の方が評価されるものだけどね」みたいな話です。帰っても良いのかダメなのかがよく分からないですし、評価されたいと普通は考えるので、結局、帰るという選択肢はないと言えます。
ダブルバインドを避ける・解消するために
ダブルバインドも、完璧に防げるかと言えば、なかなか難しくはあります。やむを得ず、意図的にダブルバインドとなる状況を作らざるを得ないことも現実的にはあるでしょう。
ただ、ダブルバインドが多すぎると、板挟みによるストレスでメンタル不調になる人が出てきたり、言われたことしかしない人が増えてしまったりします。
そのため、組織としての共通認識を作ったり、上位者同士で方針を話し合ったり、矛盾に思えることはしっかりと説明するなど、もしダブルバインドに気付けたなら、解消に向けて動くことが大事だと思います。
また、本当に選択をしてよいなら、ダブルバインドにならない選択肢をきちんと与えるとか、選択の余地がないなら、選択肢があるように見せてごまかさずに、はっきりこうせよと伝えるなど、選択肢の有無を明確にして話すことで、ダブルバインドがある程度は解消されるのではないかと思います。
自分を客観的に見る機会を作る
なお、講演のあとに質問の時間があったため、ダブルバインドやマイクロアグレッションをしている本人は基本的に悪気がないため、指摘をしても何が悪いかに気付かないし、指摘をしたら不快に思われてしまうこともあるので言いづらい、どうしたら良いか、と質問をしてみました。
回答としては、確かに難しい、大抵、そんなつもりはなかったと言い訳することに終始し、改善はしない、ということを率直にお話しくださいました。そして、その場で指摘しても余り効果はないので、職場では、落ち着いて話ができるときにフラットに伝えてみたり、それでも難しい時は、こういった講演や研修などで、自身を客観的に見る機会を設けて、そこで気付いてもらうことが、地味であるけれども一つの方法かと思う、とのことでした。
このコラムを書いている私も、自分が気付かないうちに、たくさんのマイクロアグレッションやダブルバインドをしていると思います。講演には何気なく参加したのですが、自分自身の言動を見つめ直す良い機会になりましたので、時々このような、自分を客観的に見る機会を意図的に設けていきたいと思います。