プロフィール

国立大学卒業後、大手独立系SIerに入社。同社の中で最も有力な顧客として位置づけられている金融系顧客向けプロジェクトの担当となり、システムのインフラを中心に保守運用や更改を担当。実績が認められ、社長賞最高優秀賞を受賞した。さらに高いレベルでキャリアを積むために転職を決意。リーベルの支援を受け、野村総合研究所（NRI）の内定を獲得。

大規模決済システムの更改を異例のアジャイル開発で実現

理系の科目が得意だった。だが、大学進学では文理融合系の学部を選択した。幅広く学問を修得し、自分の思考を磨きたかったからだ。そして、独立系SIerに就職後は、他者が行わないアプローチで頭角を現すことになる。

—— 大学は文理融合系の学部に進学し、卒業後は独立系SIerに就職されました。経緯を教えてください。

Hさん：私は嗜好の幅が広く、色々な事柄に興味を持つタイプの人間です。幅を狭めず、物事の見方や考え方を突き詰めたいと思って進学したのが、数学や物理、化学、情報系の学問を学ぶことを前提に、哲学、心理学、美術まで修得できる学部でした。そうした文系の学問に接したことは、人はそれぞれ考え方が違う中で、どんな風にアプローチするとうまくいくのかを知るきっかけになったと思っています。
卒業後は、情報系の学問を学ぶ中でIT業界に興味を持ったことから、大手独立系SIerに就職しました。独立系を選んだのは、制約を受けずにシステムを作れることに魅力を覚えたからです。

—— 就職後、印象に残ったプロジェクトは。

Hさん：金融系の顧客を担当する中で、アサインされたインターネットバンキングの新規システム構築案件です。この案件でハードルとなったのが、発注元の顧客にハイレベルな社内エンジニアが揃っており、要求が非常に高かったこと。要求に対して中途半端な状態で提案や成果物を持って行くとすぐに却下されますし、レベルが低いと判断されたメンバーは「もう来ないでください」と、外されます。実際、プロジェクトの中で100人以上が入れ替わっていたのが実情でした。
人が次々と抜ける中、誰かがその穴埋めをしなければならない。そこで、私はあえて火中の栗を拾う思いで、自ら手を挙げて、その穴を埋める役割を担っていったのです。気が付くと、そのシステムの機能や技術のほぼすべてに触れることができ、メンタル的にも強くなりました。エンジニアとしての土台はそのプロジェクトで築くことができたと思っています。

—— 多くのエンジニアが脱落していく中、どのようにキャッチアップしていったのでしょうか。

Hさん：最も気を配っていたのが、顧客の担当者と積極的に話すことです。顧客が厳しいと、多くの人が接点を持つことを避けるため、相手の意図を正確に理解しないまま開発を進めることになります。それでは却下されてしまうのは当然のこと。だからこそ、私は自分の考え方を伝えた上で、「何が不満なのか」「どうしてほしいのか」を先に聞いて、それを埋めていく形で業務を進めることに徹したのです。実際、そうすると自分では思ってもみなかったことを告げられ、相手との齟齬を埋められ、手戻りがなくなりました。「元来、人はそれぞれ違う考え方を持っている」というのが私の持論。まずは相手の要求を正確に把握することが大事です。それによって、多くの場合、解決の糸口が見えてくることを実感したプロジェクトでした。

—— その後、他の金融系顧客の大規模決済システムの保守や更改の担当となっています。

Hさん：その顧客も要求水準が高く、保守では夜間に障害が起きた時に真っ先に駆けつけて対応する日々を送りました。ただ、振り返ると、そんな厳しい案件ほど、自分の身になり、成長につながったと今は感じています。皆がやりたがらないこと、つらいことほど行うことに価値があり、率先して取り組んでよかったと思っています。
また、システムの更改では、サーバーの規模が倍になる一方で、リリース後の毎月の保守コストを半減させるという高水準の要件を提示されました。私はチームリーダーの一人として参画したのですが、このハイレベルの要求に応えるために行ったのが、アジャイル方式で開発を進めることです。

—— 金融系の大規模システムをアジャイル開発で構築することは、あまり前例のないアプローチでは。

Hさん：そうだと思います。ただ、コスト半減など従来にはない高い要件をクリアするのに、何をすればいいかという答えはすぐには見つからないもの。そこで、色々試して評価し、最適な方法を見つけて採用していくアジャイル的な方法がフィットすると考えました。加えて、重視したのがメンバーの意見を吸い上げて試みていく、ボトムアップのアプローチです。今までにないことを実現する際、リーダーが一人で考えても限界があります。皆の意見を拾い、様々なレイヤーの人と検討を重ねながら、本当に必要な施策をピックアップし、実際に検証して回していく。このプロセスこそが課題を突破する道だと思ったのです。私はスクラムマスターとして、皆が意見を言いやすい環境を整え、問題や障害があれば取り除く役割に徹しました。そうして、メンバーの力を最大限に引き出し、チーム力で課題を解決していくことで、困難と思われたコスト半減のシステム構築に成功したのです。

転職に挑むも、脳裏に浮かんだ「自分は通用するのか」という不安

自らの考えを基にしたアプローチで、困難な壁を乗り越えていった。若手の中で頭角を現し、評価も高くなった。しかし、入社して8年が経ち、30歳を迎えた頃、転職へと心が傾いていった。どのような心境の変化があったのか。

—— その後も、金融系顧客に対して自身の価値を発揮し、社内外の評価も高くなったと聞いています。

Hさん：コスト削減は、主に自動化ツールの導入によって実現しています。その成功例を他のシステムに横展開し、さらなる自動化・効率化を図っていくことが至上命題でした。自動化すると夜間に人が張り付かないで済むようになり、オペレーションのミスも軽減されます。
ただし、システムが変われば顧客の担当者や関係者も変わり、個々の考え方も異なります。丁寧に話し合い、それぞれの思考の把握と関係性の構築が不可欠です。また、一口に自動化と言っても、実現するためには今まで以上の作り込みを要し、パラメーターでいえば何万レベルの登録が必要となります。私はそれらの要素を実直にとりまとめ、合計で10システムへ横展開し、100台以上のサーバーの自動化を実現しています。こうした実績が認められ、社外の顧客から高い評価を受け、社内では3年連続で社長賞を受賞する栄誉にあずかることができたのです。

—— 実績を積み重ね、順調にキャリアアップしているように見受けられます。その中で転職を考え始めた理由は。

Hさん：私がシステムを構築する中で重要だと感じていたのは、単純に作ればいいのではなく、顧客と一緒に、「次はどうするべきか」「今はないものをどうやって作るか」を考えることです。金融だけでなく、他の領域でもそんな経験をしたいと思ったのが理由の一つです。
そして、もう一つが、30歳を迎えたところで、自分のキャリアについて改めて考え直したこと。今の会社では一定程度やり切ったと感じており、他社に転職して違う世界を見てみたいという思いに駆られました。

—— どのように転職活動を。

Hさん：ひとまず着手したのが、転職サイトへの登録です。舞い込む大量のスカウトメールは、どれも数行のメッセージが記述されたものばかりでした。しかし、その中に2000文字を超す分厚い内容のメールを送付してきた転職エージェントが1社だけあり、それがリーベルでした。個々のメンバーが力を発揮しチーム力で進める開発を重視していることなど、私がレジュメに書いたことを評価する内容で、そのメールに心を動かされ、「この人に支援を依頼したい」と考え、すぐに面談をお願いしました。

—— リーベルの担当者とはどのような話を。

Hさん：私の中で唯一決まっていたのは、SIerに転職したいということです。顧客と話しながら要望を聞き、課題を見つけて解消できるのは、現場で構築も保守も行うSIerだと思っていたからです。今まで力を注いできたSIerの仕事を心底楽しいと思っていたことも理由の一つでした。
しかし、どんな企業が候補になるのかは未知の状況でした。そこで、リーベルから最初に行ってもらったのが、私の希望に合いそうな企業の提案です。リーベルの担当者は表面的な情報にとどまらず、企業の内情に非常に詳しく、判断する有力な材料を提供してくれました。

—— その中に、今回内定を取得した野村総合研究所（NRI）の求人もあり、NRIを含めて数社に応募したというわけですね。

Hさん：そうです。ただ、一抹の不安となったのが、私の経験が金融業界のシステムの構築や運用に限られ、今脚光を浴びているクラウドのインフラ構築経験がなかったことです。技術的にはレガシーといわれる領域に偏る中、果たして自分の力がそうしたトップレベルの大手SIerで評価されるのか、あるいは入社できたとしても活躍できるのかが自分の中で不透明であり、実はその点への懸念があったことが、正直なところだったのです。

スキルや実績もさることながら、重要なのは「考え方」を伝えること

次のステージにチャレンジしたい。だが、同時に経験や技術に不安も感じていた。では、面接では何をアピールするべきか。突き詰めて思い立ったのが、環境が変わっても通用する自分の考え方や人間性のアピールだ。それこそが、面接では唯一無二の武器になる。

—— 懸案事項もある中、リーベルとはどのように対策を練りましたか。

Hさん：課題を整理するため、リーベルの担当者と行ったのが模擬面接です。担当者から矢継ぎ早に質問を受け、私がそれに答えるというものでした。ただ、これが課題を見出すのに実に有用な機会となったのです。
担当者に指摘されたことの一つが、「求められているものに答えられていないこと」。面接官が求めているのは、「何を行ってきたか」だけではなく「どういう考えでそれを行ったか」です。その「考え方」を伝えることこそが面接では最も重要というのが、担当者の意見でした。私は深く熟考しながら物事を進める性格であり、考え方を伝えることはむしろ私の強みのアピールにつながると思いました。それには「どう考えてそのプロジェクトを行ったか」を振り返りながら棚卸しをすることが不可欠であり、それこそが面接前に行うべき重要な作業だと気づくことができたのです。

—— 「考え方」であれば、環境が変わっても通用する武器になり得ます。その他は。

Hさん：「人」にフォーカスする回答が多く、似通ってしまいがちであることです。その課題に対しては、体系的な意識が重要だと思いました。例えば、「マネジメントで重視したことは？」という質問への回答を考える時、人・もの・金・情報の4つの切り口で答えを用意しておけばバリエ―ションが増え、使い分ければ似通った回答を防ぐことができます。リーベルの担当者には数えきれないほどの想定質問を提供されましたが、それに対して棚卸しをして、考え方を伝えるさまざまな回答のバリエーションを用意し、それを武器として私は面接に臨んだのです。

—— NRIの面接はいかがでしたか。

Hさん：実績や経験について、多種多様な角度から突っ込んだ質問を受けましたが、しっかりと自分の考え方を伝えられたと思っています。面接が終わるたびにリーベルの担当者にはどんな質問をされてどう答えたかを報告し、「こういう答え方の方が良いのではないか」とアドバイスを受け、さらに回答をブラッシュアップすることもできました。
私の面接に対するNRIからのフィードバックは、「顧客志向で相手の思考に立ってよく考えている人であることが分かった」「考え方はしっかりしているのでどの部門でも活躍できそう」「技術には偏りがあるが、そこは入社してからでも十分キャッチアップできる」というもの。そうした評価から、私はNRIから内定を獲得することができたのです。

—— 普段から、何のためにそれを行うのか、目的や根拠を深く考えて仕事と向き合ってきたことが奏功しましたね。

Hさん：技術が十分でないから転職がうまくいかないのではないかというは私の杞憂でした。技術以外にも、考え方がしっかりしていれば、そこは大きな評価対象になります。スキルや実績もさることながら、自分の考えを伝えることの重要性を理解した転職活動でした。

自分の棚卸しで得た強みや考え方は、転職先の実務でも武器になる

NRIの面接を突破し、内定を勝ち取った。そして、もう1社、大手SIerからの内定を得ることができ、どちらのオファーを選ぶか二者択一を迫られた。最終的にNRIを選んだのはどこにポイントがあったのだろうか。

—— NRIの他に、もう1社、大手SIerから内定を取得しました。どちらがベストか悩まれたのでは。

Hさん：自分でマトリックスを書いて、働き甲斐やワークライフバランス、給料などの項目で比較してみました。どちらの会社も好条件かつ魅力的で、本当に悩みました。ただ、重要な視点として改めて考えたのが、今見えているものだけでなく、予想外の環境になった時、どちらの会社にアドバンテージがあるかということ。IT業界はこの先どんな環境の変化が起こるか分かりません。そうした中で、NRIの方が何が起きても対応することに秀でた人材が揃っており、スピード感を持って課題に対処できる可能性が高いと判断しました。これは、面接で接した様々なマネジメント層の方と話して感じたことで、それが決め手となって私はNRIで働く決心を固めたのです。

—— 改めて、転職成功の秘訣は。

Hさん：最大の要因が、模擬面接で課題に気付けたことです。「その活動は何のために行っていたのか」「これは相手にとって嬉しいことだったのか、自分たちにとってどうだったのか」など、自分の中で曖昧になっていた言葉や行動を、改めて色々な人の視点に立って、整理し直しました。そうして紡ぎ出した言葉や考えは、面接の現場で企業側と認識合わせをする際に役立ちます。さらには、今後転職先で自分が仕事をする上で、重視すべきポイントであると認識することもできたのです。

—— なるほど、考え方の棚卸しは転職活動で有用であるだけでなく、その後、転職した会社で活躍する上でも、武器になる可能性が高いということですね。

Hさん：そうです。考えてみれば、前職の会社にも中途採用で入社する方が何人もいましたが、皆さん一様に能力が高く、即戦力で活躍する方ばかりでした。それは、転職活動を通じて自分の強みを見出し、それを武器として意識しながら以後の活動を行ったことが大きいと思います。その点においても、転職活動をする意味は大いにあると考えています。

—— では、最後に転職活動を検討している方々にメッセージを。

Hさん：転職活動での自分の実績の棚卸しは、個々のキャリアにとってとても有益です。今まで言語化できていなかった曖昧なことが、次々と明瞭に見えてくるからです。また、今自分に技術があるかどうかは、そこまで気にする必要はないと思います。面接で伝えるべきは、自分がどういう人間で、どんな考えの持ち主であるかということ。そこを重点的に訴求することが、転職活動では重要だと考えています。

—— 伝えるべきは、人間性と考え方。多くの方にとって参考になるメッセージになったかと思います。ご協力いただき、ありがとうございました。