COLUMN
コラム:転職の技術
第848章
2018/06/15

正社員とフリーランス

— 近火で手を焙る選択に注意 —

自由な働き方の価値観が広がり、正社員ではなくフリーランスでご活躍される方も増えている現代。個人に合った働き方で最大のパフォーマンスを発揮できるのは良い事ですが、長期的な目線で考えなければならない事もございます。フリーランスから正社員への転職を考えられている方、またはその逆を考えられている方に向けて、転職エージェントとして様々な方とお会いしてきた経験を今回は記載させていただきます。

キャリアの考え方

様々なプロジェクトがフリーランスにはありますが、多くの場合その人の強みを生かしたスペシャリストとして業務委託で参画することが多いです。逆を言えば、その人が持っている強みやスキル以上の仕事に参画出来るケースは稀。プロジェクトから徐々に成長を遂げていくことは、よっぽど戦略的にプロジェクトを選んでいかないと、なかなか難しいのです。フリーランスになったら「この技術で食べていく!」という強みで勝負していくことになりますが、冷静に、その技術が数十年先も必要とされるか、自分の技術の需要が縮小した場合の代替えプランを何にするか、ライバルと比べて自分に優位性があるか、という将来の見通しも考えなければなりません。

また、契約期間も3ヶ月毎に更新など期間が短く区切られる場合も多いため、短期間でバリューを出し、契約更新を自らの手で勝ち取っていく必要があります。エンジニアとしてのスキルアップ以外に、契約プロジェクトの交渉面(つまり営業)についても気を遣いつつ、精神的に耐えていく必要もあります。ただ、自分の得意領域を見つけられれば、市場価値と尖った強みを戦略的に作っていけるという点が、フリーランスのキャリアのメリットになります。

正社員のキャリアの場合、ビジネスマナー教育から始まり、まずは基本技術を取得しながら携わる工程が段階を踏んで上流になり、最終的にはメンバーや組織のマネジメントへとキャリアが変化していくのが一般的です。技術だけではなく、会社組織に属する社員として、会社の方針に沿った行動が求められますし、組織や同僚、上司や部下との円滑なコミュニケーション力も必要となります。雇用期間の定めはなく、定年を迎えるまで働く事ができ、突出した強みを付けるというよりも、ゼネラリストのキャリアになるのがメリットになります。

どちらが正しいキャリアということはございません。それぞれのメリット・デメリットを洗い出し、自分はどちらの志向に合うのか、今だけではなく、5年後・10年後・20年後を考えた場合に、自分はどんなキャリアを積み上げていたいのかを考える必要があります。

年収の考え方

年収の考え方ですが、フリーランスの場合、所得税、住民税、消費税、個人事業税などを自分で納める必要があります。また、企業としてはスペシャリストをプロジェクトにスポットで参画させたいと考えた場合、緊急性があることと、契約期間も短期という条件になる場合も多いため、目に見える報酬は正社員よりも高くなります。

正社員の場合、フリーランスの月額報酬と比較すると目に見える金額は低く見えます。目に見える金額という表現がポイントになりますが、正社員の場合ですと年収の約30%分といわれる社会保険料を会社と折半して納めているため、給与額に記載されていない15%分の収入もあるということになります。また、正社員の場合ですと有給休暇が与えられるため、例えば20日分の有休休暇が1年に与えられ、1年間で全て使用したとすると年収は約11ヶ月働いた分の金額という考え方もできます。傷病休暇や忌引きなどの休暇制度に加え、交通費や文房具などの事務費も会社が負担してくれるので、年収面以外での恩恵が色々と多いのです。

以上の様に、年収の考え方も複数の角度から多角的に比較検討をする必要があり、目に見える数値だけで判断するだけではなく、将来を見据えて考える必要があります。

近火で手を焙る

フリーランスにも正社員にも、どちらにもメリット・デメリットはございます。どちらを選択されるにしても近火で手を焙る様な、直近の利益に安易に飛びつく選択は避ける様にしてください。

例えば、フリーランスの方が正社員に転職する際に、一番と言っても良いくらい悩まれるのが見た目の年収ダウンです。年収や月収が減ると、今の生活レベルを見直さなければならないため、非常に悩ましい選択だとは思いますが、来月の月収だけを見るのではなく、数十年後の生き方も想像されることをお勧めします。

また、長く組織に属さず一人で仕事を行ってきた方に対しては、受け入れる企業にとっても定着性や協調性などチームで仕事をすること、および教育など部下を育てていく事に関して、どうしても懐疑的にみてしまうのも事実です。

数十年後、例えば40歳を過ぎても都度契約更新の生き方に覚悟を持っており、万が一、契約の継続ができなくなった場合の代替えプランも考えられているのであれば、フリーランスを続けられるのも良いと考えます。しかし、単純に見た目の年収が減るというだけの理由で、フリーランスから正社員へのキャリアチェンジを拒み続けると、いざ契約が途絶えた時に収入がゼロになり、新しい案件を探すにしても、正社員に転職をするにしても、自分にとって不利な条件になってしまう可能性があるのです。

筆者 南條 充
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