心理学から学ぶ新・仕事術

現代に生きるビジネスパーソンへ。心理学からアプローチした仕事術をお伝えします。

第20話

苦しい時に頭に浮かぶ言葉

— 「自動思考」の歪みに気づけるようになろう —

三日三月三年

6月に入りました。4月に新しい会社や職場に移られた方、それから職場に復帰された方は、3か月目に入られた頃ですね。「三日三月三年」という言葉があります。会社では就職した人々が辞めやすいタイミングを指す言葉として使われることも多いようです。

3か月というタイミング

「辞めやすい」ということは、そのタイミングで自分自身を振り返る人が多いということです。3日で「辞めたい」と思うのは、「入社前に想像していたものと大きく違った。こんなはずじゃなかった」というケースでしょう。

3か月というタイミングでの「辞めたい」はもう少し複雑です。3日よりも少し回りのこと、自分のことが見えてきます。「自分はこの会社ではやっていけないのではないか」といった自分の能力に対する不安や、「思っていた以上に人間関係がギスギスしているぞ」といった職場に対する不安が膨らんでくることがあります。

同時に新しい職場に慣れようとして自分なりに頑張った成果が形になってくる頃でもあります。頑張りが思ったように実を結んでいれば問題ないのですが、「上司とうまくやろうと思い試行錯誤してみたが、やっぱりダメだ」「営業成績を上げるべく、努力してみたが、成果があがらない。やっぱりダメだ」というように、努力が実を結ばない現実に打ちのめされる頃でもあります。

自動思考

少し話題を変えましょう。私達は「自動思考」と呼ばれるものを持っています。自動思考とは「何らかの出来事に遭遇した時に、ぱっと浮かんでくる考え」のことです。例えば、いつも無理難題を押しつけてくる上司が「ちょっといい?」と話しかけてきた時に「また厄介な仕事を押し付けられるな」というように、瞬時に浮かんでくる考えのことです。

自動思考は誰もが持っているものであり、それ自体悪いものではありません。ただ自分がつらい状況に置かれている時、自動思考は悪さをしてくることがあります。新しい環境や職場に入って3か月経過して頃は、うまくいっていようがいまいが、疲れが出てくる頃です。ましてや職場でご苦労されている方は、ますますつらい状況に置かれていることになります。そんな時、自動思考は悪さをしてきます。

自動思考の歪み(1):白黒思考

つらい状況にあるとき、私達の自動思考には歪みが出てきます。歪みにはいくつかパターンがあります。代表例を2つ紹介しましょう。まず、物ごとの白黒を過度にはっきりさせようとする「白黒思考」です。ちょっと失敗で「もうダメだ。おしまいだ」とすべてがダメであるように考えてしまったり、相手のちょっとした一言に「あの人とは金輪際うまくやっていけない」と、その人を全否定するような考え方をもってしまうことです。

自動思考の歪み(2):すべき思考

「自分はこうしなければければならない。それができなければ自分には価値がない」という「すべき思考」も歪みの1つです。「経験者として採用されたのだから、必ず成功すべきである」といった考えや、「なんとしても周囲の人とうまくやらなければならない」といった考えのことです。

自動思考の歪みに気づく

自動思考が歪んでくると何が起こるでしょうか。「もうおしまいだ」と考えると、全てを投げ出したくなります。「あの人とはやっていけない」と思えば、あの人を見ただけで胃が痛くなります。「必ず成功しなければ」と考えれば、ちょっとした失敗で「もうおしまいだ」と考えるようになります。自動思考の歪みは、物事を悪い方へと進めてしまうきっかけとなってしまうのです。

自動思考に歪みを起こさせないようにすることはとても難しいことです。それよりは、歪みに気づけるようになる方が得策です。頭の中にぱっと思いついた言葉について、「それって本当にそうなのか?」と自問自答する習慣をつけると良いでしょう。

考え方の歪みを取る

「歪みがありそうだな」と思ったときには、思い切って休息を取りましょう。疲れがたまると体がガチガチに固まってしまうように、心もガチガチになってしまいます。夜遅い時間にあれこれ考えないことも大事です。夜遅くなると、私達は悪い方悪い方に考えてしまいがちです。また、可能ならば誰かに話したり、書き出したりすることも有効です。「『話す』は『離す』」という言葉があります。書いたり話したりすることで、自分の歪みを離れて見返すことができて、歪みに気づくきっかけとなります。

まとめ

  • 私達は自動思考を持っています。自動思考とは「何らかの出来事に遭遇した時に、ぱっと浮かんでくる考え」のことです。
  • 仕事で大変な時など苦しい時、私達の自動思考に歪みが出てきます。物ごとの白黒を過度にはっきりさせようとする「白黒思考」や、「自分はこうしなければければならない。それができなければ自分には価値がない」という「すべき思考」です。
  • 歪みは悪さをもたらします。歪みに気づき、歪みを取ることで、悪さを回避するようにしましょう。

筆者プロフィール

坂爪 洋美
坂爪 洋美
法政大学キャリアデザイン学部 教授
慶應義塾大学大学院経営管理研究科博士課程修了 経営学博士。専門は産業・組織心理学ならびに人材マネジメント。主要な著書は『キャリア・オリエンテーション』(白桃書房、2008年)等。
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