ケンゾウの戦略コンサル物語

戦略コンサルタントの仕事やふだん考えていることなど、戦略コンサルタントの実態をありのまま綴ったコラム

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筆者プロフィール

ケンゾウ
大学院修了後、メーカーでエンジニアとして勤務。その後、外資系の戦略コンサルティングファームに転職。幾多の苦労を重ねながらも、数年間をそのファームで過ごした後に卒業し、現在は投資ファンドで働いている。
第60話

広がるポストコンサルの活躍の場

一昔前のポストコンサルのキャリアパス

こんにちは、ケンゾウです。今日は、戦略ファーム卒業後のキャリアについて、最近感じていることを書いてみたいと思います。どんな話かというと、この10年ほどで、戦略ファーム卒業後のキャリアパスが非常に多様化していると感じていますので、具体例を交えながら書いてみたいと思います。

ではその前に、一昔前の戦略ファームの卒業生にとって、どんなキャリアパスが一般的だったかを振り返ってみたいと思います(一昔前とは、2000年前後のイメージで書いています)。当時は、外資系企業での経営幹部としての転身が王道だったと思います。年齢や経験にもよりますが、転職後のポジションは、執行役員から部長くらいのイメージでしょうか。これは、当時は日本企業で戦略ファームの卒業生を採用するような動きが少なかったのに対して、外資系企業では米国本社でコンサル出身者を積極的に採用しているなど、そもそもコンサル出身者を使いこなす文化があったことに加え、給与面でも十分なオファーを出せることが要因としてあったと思います。なかでも、外資系の製薬企業は、給与やワークライフバランスの面で、戦略ファーム卒業生に人気があったようです。

他には、競合ファームに転職してコンサルを続けるか、後は、コンサルタントとして独立したり、オーナー企業に役員として招かれるなどがチラホラとあるような状況でした。逆言うと、外資系企業をターゲットから外した途端、転職先がそれほど豊富とは言えない状況だったのではないでしょうか。

現在:広がるキャリアパス

しかし、個人的には、2003年頃から少し流れが変わったように感じています。2003年といえば、ネットバブル崩壊により日本経済が停滞する中で、産業再生機構が発足した年です。また、プライベート・エクイティ投資ファンド(PEファンド)の日本での活動が本格化しだしたのもこの頃です。

これにより、大きく2つの動きが起こりました。一つは、かなりの数のコンサル出身者がPEファンドや産業再生機構などに転職し、投資を通じて出資後の企業価値を高める仕事に就くというキャリアパスが国内でも定着してきました。もう一つは、ファンドから出資先の会社にコンサル出身者を送り込むという流れも起きました。象徴的なのは、BCG出身の樋口氏がダイエーの社長に就任したことです。これは、当時の日本ではかなり画期的な出来事だったわけですが、他にも多くのコンサル出身者が社長や役員、部長などで企業を立て直すプロフェッショナルとして活躍するようになりました。

一方で、実は同じ頃に、成長企業でもコンサル出身者を積極採用する動きがありました。代表的なのは、ユニクロを展開するファーストリテイリングやミスミで、戦略ファーム卒業生を幹部人材として積極的に採用していました。しかし、これらは先進的な事例であって、他の多くの日本の大企業では、戦略ファーム卒業生を採用する動きはまだまだ限定的なものだったと思います。しかし、2003〜2004年あたりから、国内の大企業の中でも、徐々に戦略ファーム卒業生を上手く活用できないかという試行錯誤が行われるようになってきたような印象を持っています。

比較的動きが早かったのは、新興市場に上場して間もないネット系のベンチャー企業です。これらの会社では、常に優秀な人材が不足していること、オーナーでもある創業社長がトップダウンで採用の意思決定を出来ること、キャッシュリッチなネット系企業であれば給与面でも好条件を提示できること、などが要因としてあると思います。今では多くの戦略ファームの卒業生が、ネット系ベンチャー企業で、幹部人材や新規事業推進担当、M&A担当として活躍するようになりました。

また、この動きで特徴的なのは、戦略ファームの若手がこういったキャリアパスに進んでいることです。通常であればマネージャー以上のシニアが担いそうな仕事内容なのですが、ネット系ベンチャー企業の場合、上場企業と言っても経営陣が若いため、若手コンサルタントでもそういったチャレンジングなポジションに就けるチャンスが有り、若手には非常に魅力的なキャリアパスとなっています。

もう一つ見逃せないのが、従来型の大企業でも戦略ファーム卒業生の採用が進みだしていることです。私の元同僚の面白い事例を紹介すると、上場している老舗の大企業の中にも、創業者一族がいまだに経営トップを務めている会社が結構あって、そういった会社に参謀して招かれた例があります。次期社長が予定されている創業家の御曹司をサポートするのが彼のミッションで、彼のもとに戦略ファーム出身者を何名か追加採用し、御曹司と共に新規事業や業務改革などのミッションを遂行するのです。

上記はオーナー系企業の特殊な例に聞こえるかもしれませんが、これに近い話を私の周りで数件聞いているので、個人的には、一つの新しい動きなのではないかと感じています。また、他にも、最近では大手総合商社が毎年まとまった人数の戦略ファーム卒業生を採用していたり、日本の総合電機など、従来では考えられなかった企業に戦略ファーム卒業生が転職したりといった事例が増えています。興味深いのは、戦略ファーム出身者を採用するために別の給与テーブルを用意したり、嘱託という特別な形で採用しようとしたりするなど、国内の大企業が従来では考えられないような柔軟な動きを見せつつあることです。

こういった動きを見ていると、日本においても、ポストコンサルのキャリアの幅は、今後も益々広がっていきそうな感じがしていて大変楽しみです。

ご愛読いただきました「ケンゾウの戦略コンサル物語」は、今回で終了とさせていただきます。長らくお付き合いいただきました皆さまに、心より感謝いたします。どうもありがとうございました。

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