ケンゾウの戦略コンサル物語

戦略コンサルタントの仕事やふだん考えていることなど、戦略コンサルタントの実態をありのまま綴ったコラム

筆者プロフィール

ケンゾウ
大学院修了後、メーカーでエンジニアとして勤務。その後、外資系の戦略コンサルティングファームに転職。幾多の苦労を重ねながらも、数年間をそのファームで過ごした後に卒業し、現在は投資ファンドで働いている。
第35話

経営者には鈍感力が必要?

鈍感力とは?

こんにちは、ケンゾウです。少し古い話で恐縮ですが、90年代後半に日経新聞に連載された恋愛小説で、その後、映画・ドラマ化もされて、特にオジサン世代を中心に大ヒットした「失楽園」を覚えていますでしょうか?今回の話に失楽園は直接関係ないのですが、失楽園の著者である渡辺淳一さんが書いた本で「鈍感力」というのがあります。

渡辺淳一さんは御存知の通り小説家なんですが、元は整形外科医で医学博士でもあります。その彼が、医師や小説家の同僚・ライバルを見てきてわかったことは、仕事で成功を収める上では「鈍感力」が必要だということだそうです。世間では、いろいろなことを敏感に感じ取って素早く対応できる人は優秀だと見なされることが多いようですが、彼はむしろ、些細な事には動じず、他人から見ると鈍感な人に見えるくらいの方が大きな成功を収めることができると主張します。

敏感に反応できるタイプの人には、真面目で几帳面な人が多く、優秀な人が多いということについては、彼も異を唱えていません。むしろ、同期トップにはそういったタイプが多いと書いています。しかし、中長期的な視点で見ていくと、そういった同僚の中には、一度何かのきっかけで崩れた後に立ち直れず、いつの間にか競争の場からは自ら去っていくことがあると言います。一方で、いつも怒られているのにケロッとしているような同僚が、淡々と実績を積み重ねていき、いつの間にか大きな成果を出していくということがあるといいます。(詳細は書籍「鈍感力」をお読み下さい)

私は個人的にはこの話について非常に納得感を持っており、経営者にはまさに鈍感力が必要だと思っています。

経営者には鈍感力が必要

多くの経営者が、書籍などで「経営者は孤独である。その孤独感は経営者でないと絶対に分からない。」と書いています。私自身は経営者をやったことが無いので心底わかっているわけではないのですが、コンサル時代と今の投資ファンドでの仕事を通じて多くの経営者をそばで見てきているので、少しだけはわかるような気がします。

コンサルタントは、所詮は1つか2つのプロジェクトしか同時にこなすことはありませんので、その問題解決に集中することが出来ます。一方で、経営者には、会社のあちこちで起こる問題が次から次へと同時に降りかかってきます。また、コンサルタントはプロジェクトとプロジェクトの合間はゆっくりと休暇を取ることが出来ますが、経営者は休暇を取っていても会社で問題が起きればそれどころではありません。また、会社の業績が急激に傾いた場合など、会社の存続について厳しい現実を突きつけられますし、オーナー企業で社長が銀行借入に個人保証をつけている場合などは、自己破産の危機まで迫ってくるわけです。

少し暗い話ばかり書いてしまいましたが、それでは業績が好調であれば大丈夫かというと、意外とそうでもありません。私がよく知っている経営者でも、会社の業績は絶好調にもかかわらず、幹部人材の人事が上手く行かず、業績の伸びに組織が追いつかないため、精神的にかなり苦しそうにしている場面に遭遇したことがあります。

しかし、このように次々と襲ってくる課題に対して、真面目に1つ1つ神経をすり減らしながら対応していっては、心も体も持たないでしょう。ではどうすればよいのでしょうか?あるベテラン経営者は、達観したかのようにこう言っていました。「まあ、経営なんて常識的な頭でちゃんと考えて判断すれば良いだけで、それほど難しいものじゃないですよ。」

上記の私なりの解釈は、経営者といえども人間がやることなので、良くも悪くも限界がある。であれば、考えられるだけしっかりと冷静に考える必要はあるが、あとは考えた結果に沿って淡々と対処していくしかない。それ以上クヨクヨと考えすぎても、精神的に追い込まれるだけで何もいいことはない。であれば、クヨクヨ考えるだけ無駄。むしろ粛々と対応し、結果が出なければ直ぐにやり方を見直すのみ。そういった心構えで不必要に悩まないスキルこそ、まさに「鈍感力」であり、冷静な判断の続けていく上では必須のスキルなのではないでしょうか。

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