ケンゾウの戦略コンサル物語

戦略コンサルタントの仕事やふだん考えていることなど、戦略コンサルタントの実態をありのまま綴ったコラム

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筆者プロフィール

ケンゾウ
大学院修了後、メーカーでエンジニアとして勤務。その後、外資系の戦略コンサルティングファームに転職。幾多の苦労を重ねながらも、数年間をそのファームで過ごした後に卒業し、現在は投資ファンドで働いている。
第32話

罵倒されることでバリューを出す(その2)

前回までのあらすじ

こんにちは、ケンゾウです。今日は前回の続きです。クライアントである大手メーカーの管理担当役員から依頼を受けて、我々はクライアントの新規事業への投資基準の見直しを行い、追加投資で新規事業の担当者が暴走しないように運用ルールの見直しを行いました。しかし、現場部門の社員は明らかにこの新ルール導入に対して警戒・反発をしており、どうやって彼らを納得させるかが、新ルール導入の課題となっていました。

クライントから罵倒されまくる

そこで一計を案じ、まずは現場社員の幹部を集めて、我々コンサルタントから新ルールの説明会を開催することにしました。依頼主である管理部門と事前に申し合わせ、説明会で現場社員から批判が出ても、我々は一切反論しないという作戦を取りました。通常であれば、現場部門から反論されても打ち返すところですが、クライアントの現場社員はちょっとクセのある跳ねっ返りな方々が多かったので、いつもと逆の作戦でいったのです。

そして説明会当日。説明会が始まって30分。我々からの説明が終わるやいなや、現場社員からの批判・反論が噴出します。その批判のほとんどは、自分たちの取り組みが上手く言っていないことは棚に上げて、よくここまで我々を批判できるなあ・・・(苦笑)、というものだったのですが、予定通りに我々からは一切反論はしません。
我々が聞き役に徹していたため、その批判のエネルギーはさらに激しさを増します。「こんな仕組みでは仕事にならない!」「あいつら(←我々のことです)は何もわかっていない!」から始まって、最後には「◯◯◯社(←我々のファーム)のコンサルタントはアホだ!!」とまで言われ、人生でこんなに一方的に罵倒されたのは初めてだ、というくらい酷いものでした。ここまでくると、もはや発言内容は子供のケンカと同じレベルです(笑)。発言の主は50代、40代の現場の幹部社員の皆さんなのですが。

現場部門の皆さんからの批判・反論がひと通り出尽くした説明会の終盤、事前の打ち合わせ通りに、クライアント管理部門のマネージャーが現場社員に対して発言します。「皆さんのご意見はよくわかりました。我々管理部門は、コンサルティング会社からの提言内容を参考にはしますが、皆さんから今日いただいた意見を反映して、我が社に合う独自の運用ルールを管理部門にて設計して、後日、皆さんにお知らせします。」といって説明会は終了しました。

現場部門から拍手が起こる

説明会から1週間後、再び現場部門の幹部を集めて説明会が開催されました。今回の説明は、我々の依頼主であるクライアントの管理部門のマネージャーの方が行いました。我々はオブザーバーとして説明会に参加しました。
説明された内容は、実は我々が現場部門に説明した内容とほとんど同じ。ただし、事前に管理部門と打ち合わせをしていたとおり、我々が前回の説明会で発表したときには、あえて少し厳し目の設定で説明したのですが、今回の説明会で管理部門が発表したのは、少し基準を緩和した新ルールです。この前回からの差分が「現場部門の意見を反映した部分」というわけですが、実際は当初想定していたとおりの落とし所に落ち着いたルールというわけです。あとは、ルールを記述した資料が、コンサルティングファームのロゴ入り資料から、クライアント社内の資料フォーマットに変わったことくらいでしょうか。
そして、管理部門マネージャーからの説明が終わると、現場部門の部長・課長からは拍手がおこり、「さすが我が社の管理部門は優秀だ。非常に良いルールを作ってくれた。どこぞのコンサル会社(←我々です)とはやっぱり違う!」と絶賛され、無事に導入が進んだのでした。

改めてこうやって書いてみると、なんだかマンガみたいですが、本当の話です。我々を散々罵倒することで一度ガス抜きが出来たこと、管理部門がルールを少し緩和してくれた(現場からすると、自分たちの味方になってくれた)こと、それから、こういったルールの導入はある程度は覚悟していた(現場も少しあきらめていた)ことなど、いろいろな要素があったと思いますが、現場部門も納得した上で新ルールが導入でき、我々は依頼主である管理担当役員から非常に感謝されたのでした。
これは、現場はロジックだけでは動かないということの典型例だと思います。コンサルティングの本当のバリューは、こういったところにあるのかもしれません。

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