ITプロフェッショナル対談

注目企業の現場に聞く。IT業界経験者のリーベルのコンサルタントが、業界経験者ならではの切り口でキーパーソンにインタビューし、その核心に迫ります。

NRIデジタル株式会社(前編)

NRIデジタルとはどんな会社か 野村総合研究所と何が違うのか——疑問点の全てをリーベル社長が聞く!

NRIデジタルという会社の名前は知っていても、実際どのような事業を展開しているのか、野村総合研究所(NRI)とはどのように役割を住み分けているのか、正確に把握している人は多くはないだろう。また、仕事のやり方や、入社後に自ら手を動かして技術に携わる機会があるのかなど、知りたいことは山ほどある。そこで、リーベルの社長である田中祐介が、NRIデジタルのCTOとして技術分野を統括する柳沢克実氏と、最前線で活躍するシニアシステムエンジニアの西原佑氏に、それらの全ての疑問点をぶつけ、明らかにする対談を敢行。加えて、NRIデジタルではどのような人材を募集しているのかも詳しく聞いた。前編・中編・後編の3部構成で、知られざるNRIデジタルの真の姿に迫っていく。

プロフィール

NRIデジタル株式会社
CTO
DXエンジニアリング3 シニアマネージャー
DX開発 シニアディレクター
柳沢 克実 氏
1996年、26歳の時にNRIにキャリア入社。流通分野のプロジェクトを担当後、通信事業会社向けのシステム開発に従事。通信分野の事業をNRIデジタルで行うことになり、同社に出向。
NRIデジタル株式会社
DXエンジニアリング2
シニアシステムエンジニア
西原 佑 氏
2016年に新卒でNRIに入社。小売・流通のシステム開発を担当後、通信分野に異動。同分野の事業をNRIデジタルで行うことになり、同社に出向。
株式会社リーベル
代表取締役
田中 祐介
Javaエンジニアからキャリアをスタート。要件定義から設計・開発、保守運用まで経験したのち、アビームコンサルティングに転職。ITコンサルタントとしてフィージビリティスタディやIT基盤構想策定などの上流からプロジェクト推進まで幅広く従事。リーベルでは、IT業界での経験を生かし、様々な転職者を支援。2016年、代表取締役に就任。

アプリケーションエンジニアが最も多い

田中祐介(以下、田中):本日はお時間をいただきありがとうございます。最初に、お二人の現在のポジションと、携わっている仕事について教えてください。

柳沢克実氏(以下、柳沢氏):私は、今年度は3つの立場に就いています。一つは、CTOとしてNRIデジタル全社の技術分野を統括すること。もう一つは、アプリケーションデベロップメント(AD)領域でDXエンジニアリング3という部署のシニアマネージャーを務めています。最後にプロジェクト責任者として、EC構築を中心としたDX開発の案件でシニアディレクターを務め、技術領域を統括しています。

西原佑氏(以下、西原氏):私は、AD領域のDXエンジニアリング2という部署のシニアシステムエンジニアです。メイン業務は通信事業者向けのプロジェクトを担当しています。また、通信事業者以外でも、特定の顧客に対してR&Dや技術調査を行う機会もあります。

田中:その他にどのような部署がありますか。

柳沢氏:NRIデジタルは、テーマ×ファンクションのマトリクス組織となっています。私が担当するDX開発テーマを主に担当するファンクションは、DXエンジニアリング1とデータサイエンティスト/AIエンジニアが所属するデータサイエンスがあり、合わせて約150人のエンジニアが所属しています。また、DXエンジニアリング3には、アプリケーションデベロッパーだけではなくクラウドエンジニアもいます。ビジネスデザイン(BD)領域では、顧客と新しいビジネスを始めたり、PoC(概念実証)を行ったりするビジネスデザインと呼ばれるファンクションもあります。その他、テーマには、化粧品、旅行、家電量販、通信など幅広い産業分野のお客様を担当するAD やシステムコンサルタントが所属している部署があります。そうした部署を合わせて、NRIデジタル全体で従業員は約550名に上ります。(22年10月時点)

※赤色枠が柳沢氏、黄色枠が西原氏の所属する部署やポジション

NRIデジタルに「デジタルビジネスコンサルティング、デジタルIT ソリューション、アナリティクスサービス」を集約。

田中:お二人のプロフィールをお聞きすると、いずれもNRIからNRIデジタルに移られています。両社の内情をよく知られていると思いますが、そもそもNRIからNRIデジタルをスピンアウトさせた意図は何でしょうか。

柳沢氏:NRIの顧客は大手企業が多く、そうした顧客に対しては、基幹システムもしっかりと構築する必要があり、顧客からも期待されています。また、それと並行して、昨今はコンシューマー向けにECサイトを立ち上げたり、更にその前段であるコンシューマー向けの新しいビジネスモデルやサービスの企画や構築を求められたりするケースが増えています。そこで、DX案件をNRIデジタルに集約し、DXに関するナレッジを効率的に蓄積したり、DX案件に適した組織体制を整備したり、DXを得意とする人材を育てるようにすることで、顧客に質の高いサービスを提供できるようにしました。また、よりスピーディーな経営判断ができるように、というのも、会社を分けた理由の一つです。

田中:たしかに、DX案件を集めたほうが、組織として経験値をよりスピーディーに高められ、質の高いアプトプットもできそうですね。

柳沢氏:はい、そういった背景から、ECサイトの開発や、新しいビジネスモデル・サービスに関わる案件をNRIから切り出し、一手に引き受ける組織として発足したのがNRIデジタルです。発足後は、NRIデジタルが主に対応する流通、通信、産業といった業界向けの経験があるエンジニアをNRIからNRIデジタルに集め、キャリア採用も積極的に行うことで体制を整えています。私も西原もそうした経緯で出向し、今は当社の部署やプロジェクトを支えているというわけです。また、データサイエンティストをNRIデジタルに集約していることも特徴の一つでしょう。

田中:DXや新しいサービスばかり注目されがちですが、顧客は大規模な基幹システムも運用しており、そこにも圧倒的なニーズがあります。SIerとしては、こちらの期待にも応える必要がありますが、NRIグループでは、NRIデジタルにDX案件を集約することで、顧客の状況や要望にうまく対応しているというわけですね。

NRIとNRIデジタルは垣根がなく協業も多数

田中:さて、NRIデジタルでは主に流通、通信、産業に対応していると言われましたが、例えば、産業ではどのような分野の顧客をターゲットとしていますか。

柳沢氏:私の部署のメンバーは、家電量販店、旅行サービス、土木建築、運輸交通、不動産など幅広い分野に携わっています。証券・保険・銀行業界などはNRIの金融分野で対応していて、それ以外の非金融系を当社では産業と呼んでいるのですが、産業分野については、本当に多種多様な企業、業界のシステム構築を担当しています。

田中:最近顧客からの相談が特に多いトピックはありますか。

柳沢氏:当社が受ける案件としてはWebサービス系が多くなっています。ただ、Web系といっても、SPA(Single Page Application)関連の技術を使って、バックエンドでマイクロサービスを作るような案件です。マイクロサービスを導入することによってビジネスのスピードを加速させたいという顧客要望が高まっており、それに応える形で提供しています。

田中:ところで、先ほどからNRIの話がよく出ますが、NRIと一緒になってプロジェクトで仕事をすることはありますか。

西原氏:はい、むしろNRIのメンバーとは一緒に仕事をすることが多いですね。私が担当していた直近の案件では、NRIのメンバーがプロジェクトマネージャーを担当して全体を管理、NRIデジタルのメンバーはアーキテクトとしてテクニカルな部分を担当するという構図です。思い返せば、昨年も一昨年もずっと一緒にプロジェクトを進めてきました。同じ年にNRIに入社した同僚も多く、互いに仲も良いので壁は全く感じません。

自ら先端技術に触れる機会も多いNRIデジタルのエンジニア

田中:NRIデジタルはテクニカルな部分を担当するという話でしたが、転職候補者の胸中にあるのは、NRIデジタルは大手であるため、パートナーの管理ばかりで、実際に技術に触れることができないのではないかという懸念です。NRIグループでは自ら手を動かせる力があることを大切にしている、と認識しておりますが、NRIデジタルの実態はいかがでしょう。

西原氏:先述のマイクロサービスや、その他のクラウドの案件でも、最初の技術要素の検証は、私自身、自分の手を動かしてしっかりと理解してからスタートしています。ですから、私の感覚では、色々と技術に触れる機会は多いと思っています。

柳沢氏:我々は各プロジェクトでパートナー企業と協働しています。そうした中、もちろんパートナーに丸投げすることはせず、プロジェクトメンバーはきちんと技術を検証し、理解してから依頼することを大事にしています。そのため、自ら手を動かすことは必須なのです。特に、NRIデジタルでは新しい技術やサービスを使うことが多く、パートナー企業も扱ったことがないものを依頼する機会も少なくないため、技術の中身を理解し、検証するプロセスは不可欠となります。自ら技術に触れることで、より質の高いサービスを作ることができると考えています。

田中:NRIデジタルのエンジニアは、技術の中身やどう動くのかを腹落ちした上で、パートナーに仕事を依頼しているのですね。技術を強みとするNRIデジタルならではのこだわりと言えますね。

他社ができない、DXと現行システムをつなぐ力がある

田中:他に、NRIデジタルらしさがあり、競合他社にはあまりない強みはありますか。

柳沢氏:結構多いのが、コンサルティング会社など他社がDXを掲げて顧客の既存のシステムを変革しようと試みたものの、実際にビジネスとして稼働するところまで至らず、困っている状態で我々に相談が来るパターンです。それを我々が引き取り、何とか最後までやり遂げるという事例が、実は相当数に上っています。

田中:そうなんですか。それは知りませんでした。私も前職がコンサルティング会社なので、気になるところです。どのような理由で他社ではうまくいかないことが多いのでしょう。

柳沢氏:顧客の中では既存システムが動いています。しかもほとんどが大手企業のため、かなり大きな資産規模の既存システムを持っています。つまり、DXや新しいシステムを導入する際に、その既存システムを切り離してはビジネスが回らないわけです。その新旧のシステムをつなげることが必要となるのですが、それがなかなか難しく、さじを投げてしまうケースが多いのです。その点で、我々はどうすればいいか調べる力があり、何とかしてつなげる力があります。そこに一日の長があることが、NRIデジタルの強みになっています。

田中:なるほど。ですが、調べたり、つなげたりするという技術は、他社も底上げしようと頑張っているはずです。しかし、それができない中、なぜNRIデジタルは他社の不可能を可能にできるのでしょう。

柳沢氏:少し手前味噌な話になりますが、技術者のレベルが高いことに尽きるでしょう。若手も含めて、最新の技術を勉強するだけでなく、エンジニアの基礎的な素養の部分もしっかり学べる環境が整っている点が大きいと思います。例えば、多くのメンバーが高度情報処理技術者試験やベンダー資格を取得しています。そうして、基本的な技術知識を体系的に習得した上で、新しい技術にチャレンジしているところが、他社のエンジニアとの大きな違いではないかと思っています。

ライター プロフィール

高橋 学(たかはし・まなぶ)
1969年東京生まれ。幼少期は社会主義全盛のロシアで過ごす。中央大学商学部経営学科卒業後、1994年からフリーライターに。近年注力するジャンルは、ビジネス、キャリア、アート、消費トレンドなど。現在は日経トレンディや日経ビジネスムック、ダイヤモンドオンラインなどで執筆。
◇主な著書
『新版 結局「仕組み」を作った人が勝っている』(光文社)(荒濱一氏との共著)
『新版 やっぱり「仕組み」を作った人が勝っている』(光文社)(荒濱一氏との共著)
『「場回し」の技術』(光文社)など。
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