ITプロフェッショナル対談

注目企業の現場に聞く。IT業界経験者のリーベルのコンサルタントが、業界経験者ならではの切り口でキーパーソンにインタビューし、その核心に迫ります。

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株式会社ディー・エヌ・エー インフラエンジニア(中編)

インフラエンジニアの目指すキャリアとは?キーワードは「フルスタック」SDx時代を生き抜く、スキルセットに迫る

DeNAのIT基盤部を率いる小野篤司氏に、リーベルのSE出身コンサルタント・鈴木裕行が迫る対談の中編。同社がOpenStackやSDxを活用した次世代インフラ基盤の構築・導入を進める狙いについて、前編ではコストの面から語った小野氏だが、実はもう1つ大きな理由があるという。それはいったい何なのか? さらにそこから見えてくる、今後、インフラエンジニアに必須となるスキルセットや、目指すべき将来像とは? 自身のキャリアをどのように構築していくか真剣に考えている全てのインフラエンジニアにとって、絶対に見逃せない内容だ。

プロフィール

株式会社ディー・エヌ・エー
システム&デザイン本部
スマートハードウェア事業室 室長 兼 IT基盤部 部長
小野 篤司 氏
2004年DeNA入社。一貫してシステム基盤管理に従事しソーシャルゲームをはじめDeNAの数多くの事業で高トラフィック、高可用システム設計・運用を実施。
aws東京リージョン開設以前からのクラウド利用推進や、2011年の震災時にはactive-activeなディザスターリカバリー構成の設計なども行う。
近年ではSDxを用いたprivate cloud環境の導入など中長期的技術施策に取組む傍ら、スマートハードウェア事業室を立上げ、技術部門による事業創出も行っている。
株式会社リーベル
取締役 コンサルタント
鈴木 裕行
沖電気工業(OKI)にて、官公庁を中心とした要件定義・企画構想からインフラやネットワークの構築、アプリケーション開発などを担当。一貫してマネジメントに関わった後、2012年からリーベルへ参画。マネージャー人材やインフラエンジニアなど、IT業界に特化した転職支援を実施している。

OpenStack、SDx導入の裏にあるもう1つの理由

小野氏:と、ここまでOpenStackやSDxの導入について、コスト面での狙いをお話しましたが、実は、もう1つ理由があるんです。 人材の育成・活用という観点です。

鈴木:それはどういうことでしょう?

小野氏:このままパブリッククラウドがどんどん台頭していくと、ネットワークエンジニアの仕事内容自体が薄くなっていくと思うんです。

鈴木:う~ん、おっしゃるとおりですね。

小野氏:残るのはオフィス内のネットワークくらいじゃないかと思うのですが、それも最近、SD-WANのように社内には機材を持たずに線だけ引いて、管理はクラウドという形態も出てきていますし。

鈴木:確かに。転職を希望するネットワークエンジニアでも、ここ数年、危機感を持っている方が増えています。

小野氏:そんな中、弊社でも社内にネットワークエンジニアを抱えています。その人たちは、ネットワークに固執するのではなく、もっと違ったレイヤーの仕事をしていって欲しい。会社としても、できるだけ幅の広いスキルを持った、いわゆるフルスタックのようなエンジニアを1人でも多く作っていったほうがプラスになりますし。

鈴木:そうでしょうね。

小野氏:そうしたキャリアの観点からも、従来のようにサーバとネットワークの担当が分かれていて、仕組みとしても分断されているよりも、もっと両者が統合された、お互いにとって扱いやすいアーキテクチャーを導入していけたら、技術の広がりが出てくるだろうと思ったんです。

鈴木:なるほど。そこでOpenStack やSDxの導入となるわけですね。

小野氏:ええ。ネットワークエンジニアがキャリアの先細りというリスクを回避するには、OpenStackやSDxのスキルを身につけて、サーバのレイヤーに出ていったほうがいい。一方で、サーバエンジニアにとってもネットワークの技術は重要で、もう少し気軽にネットワーク機器を扱えるようになってほしい。OpenStackはベースがLinuxで、Linuxのコマンドで管理できますから、そのトリガーにもうってつけです。

鈴木:そこまで考えてるのですね。従業員のキャリアの観点から環境を選択するというのは、あまり聞いたことがありません。また求人に目を向けても、御社のように大きいトラフィックを扱うところだと、AWSだけでなくオンプレでのクラウド経験者に対するニーズはありますね。もともと利用しているサーバのリソースが大きいですから。

インフラエンジニアもコードが書けないと業務ができない

鈴木:従来、インフラエンジニアはインフラだけをやる、サーバならサーバ、ネットワークならネットワークだけをやる、でよかったじゃないですか。それがSDx時代になると、よりシームレスに、ネットワークエンジニアでもあるいはサーバエンジニアでもプログラミングに関わる必要が出てくると思います。御社の場合、今後はそれを社員全員にキャリアの方向性として求めていく方針なんですか?

小野氏:そうですね。インフラ部門については、首尾一貫してずっとそうだと思います。もともとそういう感覚でずっとやってきた人たちが、今もインフラ部門を引っ張ってきているので。

鈴木:逆に、御社にこれから入社したいという方で、インフラはやっていたけどアプリケーションはやったことがないという人もいると思うのですが、そういう人は入社後、自らキャッチアップしていくことになるわけですか?

小野氏:そうですね。そこはキャッチアップしてもらわないと、ウチの場合は業務ができないですね。Webアプリの調査をするだけではなくて、僕らのインフラの管理はかなりコード化されているので、コードを書けないと業務の半分以上はやれないんですよ。

鈴木:そうなんですか! 実際、入社する方の何割くらいがアプリケーションも出来ますという人なのですか?

小野氏:いや、ほとんどが、それほどやったことがない人ですよ。学生の時にちょっとやったことがあります程度で。

鈴木:では入社してから自分で勉強したり、他の人の仕事を見て覚えたりするんですか。

小野氏:そうですね。自分たちのツールをメンテナンスするにあたっても、部の中にはそれなりにコーディングのスキルを持った人がいますし、コードのレビュアーもいます。開発部門がやっているのと全く同じように、コードはgithubで管理していて、修正用brunchをきってコード修正&CIし、pull requestでmerge依頼をして反映する。そういう普通の開発プロセスが、インフラ部門内でも日常的に動いているんです。

鈴木:なるほど。

小野氏:入ってきた人には、まずは既存のコードを読むことから始めてもらいます。そうすると、だいたいこういう作りなんだなとわかると思うので、それを参考に、ゼロから作るのではなく一部の修正からやってもらうなどしながら覚えてもらう感じですね。

鈴木:そういうことですね。

小野氏:普通に考えて、プログラマって世の中にたくさんいるわけで(笑)。運転免許を取るのと同じようなもので、能力的にやってできない人ってほとんどいないんですよ。やれば普通にできる。あとは本人がそういうことをやっていきたいか、自分にとってプラスだからやってみようと思うかどうかですよね。

インフラエンジニアにもやりたいことをサービスとして事業化してほしい

鈴木:ネットワークやサーバだけをやっていていいのか、という時代に、アプリケーション開発のスキルを身につけることは、本人にとっても絶対にプラスになりますよね。

小野氏:もちろんそうだと思います。弊社は事業会社なので、システムが分かって、なおかつサービスを作りたいというマインドを持っている人を1人でも多く作ることが会社にとってもプラスになる、と考えているんです。一方でインフラエンジニア本人たちにも、技術の幅を広げ、自分がやりたいことをサービスとして事業化していってほしいし、そういうことを奨励していきたいとも思っています。

鈴木:なるほど。

小野氏:サーバやネットワークだけでなく、アプリケーションについても頑張ればなんとかなる、くらいのところまで至れていると、自分でサービスを立ち上げることができる。それは会社にとっても本人にとっても、両方にとってプラスが大きいですよね。

鈴木:そうですよね。一方で、キャリア採用という観点だと、ストレージなり、ネットワークなり、何らかの強みがあったほうが御社には合うのではないかと考えるのですが。そのあたりはいかがでしょう?

小野氏:そうですね。ストレージに関しては、例えば何か箱モノを使っていましたというのはあまり強みになりません。もっとソフト的なところ、例えば分散ファイルシステムの中身の構造を深く掘り下げて開発をしていました、みたいな人ならすごく際立ちますが。ストレージ製品を触っていました、と言われても、いやそれは誰でも触れるでしょ、となってしまいます。

鈴木:なるほど。ネットワークに関しても同じでしょうか。

小野氏:ネットワークエンジニアについては、弊社の場合、ネットワーク管理を専任でやっているという人は少ないんですよ。なので、たくさん採用するということはないんですが、今も募集はしています。ネットワークのスキルにものすごい強みを持っているという人はもちろん欲しいですし、先ほどお話ししたような、今後のキャリアを踏まえて、単純にネットワーク管理だけをやるのではなく、他のところにもスキルを広げていきたい、みたいな志向を持っている方もウェルカムです。ネットワークエンジニアがサーバの運用管理をしたい、とか、開発をしたい、というのも全然あっていい。実際、ウチのIT基盤部でずっとネットワークグループに所属していた人が、今年の年初からサーバを運用管理するグループに異動したケースもありますし。また、ネットワークをやっていたけれども開発をやりたいといってそちらに異動した人もいましたね。

鈴木:そういう異動の希望も、認めてくれる体制だと。

小野氏:そうですね。体制というか文化だと思います。そういうことをやらせてあげないと人は辞めちゃうと思っていて(笑)。本人にやる気と素養があるのなら、基本的に希望どおりになります。

ライター プロフィール

荒濱 一(あらはま・はじめ)
1971年、東京生まれ。上智大学文学部教育学科卒。高校教諭、タイ・インドでの広告代理店勤務を経て、1998年からライターとして活動を開始する。現在、ビジネス(特に人材・起業)、IT/デジタル機器、著名人インタビューなど幅広い分野で記事を執筆するほか、広告コピー分野でも活躍。
◇主な著書
『新版 結局「仕組み」を作った人が勝っている』(光文社)(高橋学氏との共著)
『新版 やっぱり「仕組み」を作った人が勝っている』(光文社)(高橋学氏との共著)
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