
PMIはなぜ困難なのか
エージェントをしていると、転職者さんから厳しいプロジェクトのお話をよく聞きます。リプレースや大規模プロジェクトなどは例外なくほぼ全てがそうですが、特にPMIの経験者は、皆さん大変だったと語ってくれます。
PMIの正式名称はPost Merger Integration。M&A(企業の合併・買収)成立後の統合プロセスを指していて、このIT全般の統合を担った方から、お話を伺ったことがあります。
異なる2つ以上の企業が統合し、1つの組織として相乗効果を発揮できるように統合させていくのがPMIのミッション。経営戦略や組織文化、事業や制度、そしてITシステムまでを最適な形で統合する、一連の作業を指します。なかでもITにおけるPMIは、ERPの統合に始まりインフラやネットワークの共通化、運用やポリシーの一本化など、ビジネス自体の仕組みを変えるタフなプロジェクトです。
技術的な難易度が高いのは言うまでもありません。しかし経験者から聞くと、仕様の策定だけではなく、異なる制度や価値観がぶつかり合う政治的調整の難しさが多分にあります。
PMIを推進するには、まずは統合の目的を見据えた上で、システムや運用におけるあるべき姿・目指すべきゴールイメージを定めなければなりません。2社それぞれの役割を踏まえ、現行システムやベンダー、ユーザーを巻き込んだ整理と調整が必要なのです。考慮するべきことは多く、決断は容易ではありません。価値観やイデオロギーが異なる2社が合併するとなると、政治的対立も発生します。なので、一つ一つの要件定義の場でもそういった課題が噴出するのです。当然、技術的な最適解だけが求められるのではなく、合理性だけが重視されるものでもありません。
経営陣から現場までを巻き込んだうえで、動かせないデッドラインの中で落としどころを探ることになります。そういったことを繰り返し、PJの期間は徐々に圧迫されていき、結果的にPMIがタフなプロジェクトとなっていくのです。
統合を推進するために
PMIではありませんが、私もSE時代にシステム統合を経験したことがあります。グループ企業20社において個別に利用されていた人事システムの統合案件でしたが、これが全くうまくいきませんでした。今考えてみれば、ベンダー視点が強すぎたのです。もっと各社の人事部門を巻き込み、主体者として参画してそれぞれに考えてもらう必要があったと思います。目的としてはシステムコストの削減、そのためには既存の業務を変革する必要がある。そのために、移行計画や教育・運用体制までを顧客自身が考える。そんな当たり前のことが出来ていなかったのです。
それを改善するために、やったのはユーザー側の事務局の改革。プロジェクトを推進するため、ユーザー側でイニシアティブを取ってもらう体制に変えて、物事が前に進んだのを覚えています。何より大事なのはシステム統合の目的。この目的意識を事務局だけでなくユーザーにも理解してもらい、決定事項を伝えていく必要があります。
未曽有の危機からリーグ統合
最近読んだ『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』という書籍で、「異なる制度や価値観がぶつかりあう政治的決断」の醍醐味を感じました。2016年のプロバスケットボール「Bリーグ」誕生へと至る、リーグの統合劇です。
かつて日本の男子バスケ界は、企業チームを中心とした「NBL」と、日本初のプロリーグとして誕生した「bjリーグ」という、理念も構造も全く異なる2つのリーグに分裂し、激しく対立していました。それまでの従来型であるNBLと、地域密着のエンターテインメント性で発展したbjリーグ。この2つは10年近く膠着状態が続き、ついにはオリンピックへの出場停止の危機に瀕するのですが、そこで調停役として送り込まれたのが、Jリーグの創設に関わった川淵三郎さんでした。
それまでもNBLとbjリーグは何度も話し合いをしていましたが、議論は平行線のまま。そこで川淵さんは会議をメディアに完全公開してプレッシャーを与えるとともに、各クラブの経営者を個別に口説き落として内側から構造を切り崩すという、政治戦を仕掛けました。利害関係が一致しないベンダー同士の不毛な会議を止めさせ、トップダウンで新しいグランドデザインを提示し、一気にマイグレーションを断行。わずか半年という限られた期間で動き、NBL側にも気を遣いつつ、見事にリーグの統合を成しえました。
PMIがもたらす大きな成長
その後、Bリーグは10年間で事業規模は約4倍に成長。入場者数や売り上げも格段に増加し、今では日本全国でアリーナの建設ラッシュが起きています。各地域に対する貢献も大きく、当時の政治的な意思決定が無ければ、今日のこの熱狂も存在していません。ブレイクスルーのためには、綺麗事ではない、裏方の泥臭い業務が発生しているのです。
また、実は私がご支援したPMI経験者の方々も、だれもが知る有名企業の統合を担当されていました。統合から数年が経ち、今では統合後の企業名やブランド、立ち位置の方が知られているようになっています。PMIの成功のためには、トップによる意思決定と、現場で落とし込んでいくマネージャー。そのどちらも欠かせません。大規模統合の現場では胃の痛むような場面も発生しますが、それが企業の未来、ひいては社会の発展に繋がっています。


