ITプロフェッショナル対談

注目企業の現場に聞く。IT業界経験者のリーベルのコンサルタントが、業界経験者ならではの切り口でキーパーソンにインタビューし、その核心に迫ります。

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PwCコンサルティング合同会社(第3回)

社会課題を起点に、最先端テクノロジーを市場や投資の動向まで含めて予測、社会実装することで未来に貢献する

監査、コンサルティング、法務、税務、アドバイザリーなどをグローバルに展開するPwC。その日本のメンバーファームの集合体であるPwC Japanグループは今、最新テクノロジーの活用、強化に注力している。背景には、将来予測が極めて難しい社会においてPwC Japanグループが社会課題解決のトップランナーとなり、パーパスである「社会における信頼を構築し、重要な課題を解決する」を実現するには、テクノロジーが鍵であり、最も強力な手段だととらえているからだ。
そこで、4回にわたって、PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)のテクノロジーおよび人材についてお伝えする。
第3回は、今後の技術の動向が最も具体的に見えるTechnology Laboratory(以下、「TL」)の実態に迫る。TLを率いる三治信一朗氏に、リーベルの社長、田中祐介が、この組織の特色、発想、戦略、人材観などを聞いた。

プロフィール

PwCコンサルティング合同会社
上級執行役員 パートナー
テクノロジー&デジタルコンサルティング事業部
Technology Laboratory所長
三治信一朗 氏
大学院卒業後、日系シンクタンクで科学技術イノベーション政策、内部統制関連業務を担当、コンサルティングファームを経て2020年にPwCコンサルティング合同会社に入社。発足したTechnology Laboratory所長を務める。産官学それぞれの特徴を活かしたコンサルティングに強みを持ち、社会実装に向けた構想策定、コンソーシアム立ち上げ支援、技術戦略策定、技術ロードマップ策定支援コンサルティングなどに従事している。
株式会社リーベル
代表取締役
田中 祐介
Javaエンジニアからキャリアをスタート。要件定義から設計・開発、保守運用まで経験したのち、アビームコンサルティングに転職。ITコンサルタントとしてフィージビリティスタディやIT基盤構想策定などの上流からプロジェクト推進まで幅広く従事。リーベルでは、IT業界での経験を生かし、様々な転職者を支援。2016年、代表取締役に就任。

次の時代の革新的技術の社会実装を担う

田中:さきほどはTLを見学させて頂き有難うございました。TLは、従来のコンサルティングファームの職場イメージとはかなり違って驚きました。理工学分野の最新の研究・実験施設のような雰囲気があります。

三治氏:ここにはエンジニアが常駐し、お客様にさまざまなシミュレーションを見せることができます。お客様の反応を見つつ、すぐにビジネスケースを作ることができる点はコンサルティングの新しい姿と言えるでしょう。

田中:まず、TL設立の背景や目的からうかがいたいと思います。

三治氏:PwCは約250の技術分野を分析し、これから社会に大きなインパクトをもたらす革新的テクノロジーと考えられる8分野を選び、社会実装することをグローバルに進めていました。それらの分野をPwCではエッセンシャル8(ESSENTIAL 8)と呼んでいますが、これがいよいよ実装フェーズに入ってきました。テクノロジーには成長段階があり、エントリー段階から社会実装に至るまでには“型”があります。テクノロジーによって成長のしかたは異なりますが、その型を作り、民間企業の事業変革、官公庁の政策、大学・研究機関などのイノベーションを支援するのが大きな目的です。

田中:エッセンシャル8にはどのようなものが含まれるのですか。

三治氏:3Dプリンティング、AI、AR、ブロックチェーン、ドローン、IoT、ロボティクス、VRです。このほか、2、3年後から5年後くらいに産業形成が期待できる5分野(3次元空間情報、次世代ウェブ、人間拡張技術、材料情報、高齢化対応・健康技術)をネクスト5、さらに10年から20年後に社会に普及し、大きな変革をもたらすと予測される5分野(脳科学、量子技術、食品変革、宇宙関連技術、エネルギー変革)をビヨンド5と呼び、アプローチしています。

田中:分野の幅の広さにも驚かされます。

三治氏:TLは、いわゆるCoE(Center of Excellence)の役割を果たしています。ですから一つの技術にフォーカスするのではなく、複数の技術を連携させることができます。例えばドローンも、先進的な車椅子も、位置や移動を空間内の座標で示すことができるという意味では共通していますから、3次元空間情報技術の空間IDによって発展させることができます。その実際をこのラボでは見せることができるのです。

田中:なるほど。そこでクライアントに、具体的な機器の移動と空間IDの関係をわかってもらうため、シミュレーションが有効であるわけですね。

三治氏:そうなんです。このラボにはそのほか、地球シミュレーター、防災シミュレーターなどがありますし、モビリティとの連動を空間情報でつないだ姿で見せることもできます。

田中:そこが従来のコンサルティングとは大きく違う点ですね。

三治氏:TLの大きな特色の一つが、このようにテクノロジーの実際が見える場を提供できること。もう一つは、産官学をつないでいることです。さまざまな分野のコンソーシアムの設計や立ち上げをお手伝いしていますし、関係イベントの企画運営などにも積極的に取り組んでいます。

さまざまな部門と連携し、成果をめざす

田中:カバーする領域がこれほど多方面ですと、クライアントも多岐に渡り、ご苦労も多いかと思います。

三治氏:お客様ごとに特色は違いますが、TLとしては、「社会における信頼を構築し、重要な課題を解決する」というパーパスに従い、中立性、透明性を大切にし、偏りなく事業を進めています。

田中:コンサルティングというものは、いちクライアント企業に目を向けてしまいがちですが、社会全体のことも視野に入れたバランスの良さにPwCらしさを感じます。確かにそうでなくては、コンソーシアムなどは実現できませんね。TLとPwC Japanグループ全体との関係はどのようになっているのでしょうか。

三治氏:監査とビジネスでのつながりは強いですね。我々はユースケースを作り、推進する側ですが、監査の側はデータの信頼性などに携わり、互いに検証しあうといった形です。我々がテクノロジーの面で尖った部署であるからかもしれませんが、色々な部署が声をかけてくださるのはありがたいところです。

田中:そこもPwCらしさですね。リスク検証という守りもあって信頼性の高い事業になっていると思います。

三治氏:ですから私たちがビジネスを推進できるということは、信頼性の高いテクノロジーを社会に還元できていることだと自負しているのです。

田中:PwCコンサルティング内部での他部門との連携はどのようになっていますか。

三治氏:DXやIT戦略に関係する事案ではTAS(Technology Advisory Service)チームと一緒に動くことが多いですし、データ連携基盤のようにデータドリブンでユースケースを作っていく案件ならAIチームと組むことが多いですね。他にもいろいろな部署と連携しています。また新規事業案件も多いのですが、ストラテジー系の部門と一緒に携わるケースが増えています。

田中:社内でも実に多彩な連携のパターンがあるのですね。TLにはテクノロジーそのもののイメージを強く持っていましたが、テクノロジーとリスク、テクノロジーとビジネスといった複合的な視野を持たれていることがわかります。

三治氏:はい。テクノロジーとマーケットや投資との関係でとらえることにも力を入れ、IPランドスケープ(知財財産の分析およびその経営戦略への応用)を策定できるツールIntelligent Business Analyticsを開発しました。これは産学連携の成果の一つで、知財戦略の専門家である金沢工業大学の杉光一成教授を顧問に迎え、当社が独自開発したものです

田中:ツールを使うことで何が可能になりますか。

三治氏:技術を、知的財産やビジネスの側面から評価することができます。このように初期段階からストラテジー部門のメンバーと共に考え、議論し、そこから出てきたアイデアをTLが実装し、事業に伴走して進めるのが典型的な形ですね。

田中:SIerとはまた違うおもしろさ、やりがいのある仕事になりますね。

三治氏:TLの仕事は、手早く、顧客や投資家に対して、テクノロジーを導入したときのイメージを形にして伝えることです。それにより意思決定、投資判断のスピードを早めることができます。

田中:PwCが特にTLを持つことによる強みはどこにあると考えていますか。

三治氏:一言で言えば、「目利き力」でしょうか。

田中:それがどのような力か、もう少し説明してください。

三治氏:テクノロジーの内容だけでなく、その発展度合いを正確に予測し、ロードマップを描ける力を持てること。それによってどこまで投資を我慢するか、どう効率化して実装するかなどの判断ができます。これができないと次に何が来るのかがわからないため、ビジネスジャッジが当て推量になりやすいのです。私自身は、3年ほど前から投資ポートフォリオからビジネス設計までを描いた、ある種、自らのビジネスを具体化した文書を作成し、仕事を進めています。

田中:まさにTLの「目利き力」が反映されたものですね。

三治氏:その通りです。

田中:一つ確認しておきたいのですが、PwCにはFuture Design Laboratory(以下、「FDL」)という組織もありますね?こことはどのような違いがありますか。

三治氏:FDLの主たる目的は、未来創造のアセットを作ることです。一方、TLは社会課題を中心にアプローチしています。もちろん、この二つは重なる部分もあるので、コラボレーションもありますし、意図的に連携しやすくしています。例えば、未来創造型のテーマとIntelligent Business Analyticsを組み合わせて、より実現可能性の高い、手堅い戦略を立案することができます。

柔軟な配置や育成で多様なキャリア人材を活用

田中:TLが市場、投資なども含めてテクノロジーをとらえていることがわかりました。そうすると非常に多様な人材が必要になると思います。では、特定の技術に非常に詳しい人材もいたりするのでしょうか。

三治氏:TLにはそのようなメンバーもいます。例えばドローンについては技術から、各国の法体系、現状まで詳しい生き字引きみたいな専門家がいます。TLではそういうニッチトップ的人材も、総合的な能力を持つ人材も、両方求めています。というのも、専門特化した人というのはある分野を極めていくと、IPランドスケープまで見えてくるんです。TLとしても、そういう成長を促しています。

田中:キャリアをどのように伸ばしていけますか。

三治氏:アサインの際、希望分野を聞きます。それに沿ってキャリアを作ることができます。

田中:専門性を深く追求するとともに、広い範囲も見られるように考えておられるのですね。前職の経験もさまざまになりそうです。

三治氏:その通りです。採用者の前職は非常に多岐にわたります。例えばロボット分野でARMコードを書いていた人もいれば、工場でライン設計をしていた人もいますし、SIerにいた人、大学の研究者だった人などさまざまです。博士号取得者も多いですね。

田中:TLは現在、何人くらいの陣容ですか。

三治氏:100名を超えています(※2023年8月現在)。

田中:かなりの規模ですね。こうしたテクノロジードリブンの組織は通常、インハウス型が多く、自由に動くのが難しい場合もあると思いますが。

三治氏:TLの場合、テクノロジーは追求しますが、テクノロジードリブンというより、社会課題ドリブンだと言えます。ですから自分のやりたいことを、社会課題の解決に沿って実現できると思います。そのとき対象として大切にしている軸が3本あります。お客様(クライアント)、産業および社会、社内(他部署)です。社内に関して言えば、インダストリーアカウントの方々の問題意識なども大切にしたいと思っています。

田中:TLのそうしたありかたを、どのように社内に認知させているのですか。

三治氏:社内ツアーの開催、ニュースレターでの発信のほか、社内メディアに取り上げてもらったこともあります。

田中:事業の実例を挙げていただけますか。

三治氏:展示会などでのサービスロボットへの取り組み、ドローンでは、NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクトに参画し、支援を提供すると同時に事務局としての役割も担っています。また香川県高松市主催の「たかまつマインクラフトまちなみデザインコンテスト」においても事務局を務めました。

技術への目利き力、一人ひとりの情熱が融合

田中:中途採用人材についてうかがいたいと思います。どのような人材に期待されていますか。

三治氏:TLは、最も尖ったテクノロジーに取り組んでいるだけに、採用人材には高い能力を求めますが、必ずしもテクノロジーの高度な専門性を求めているわけではありません。むしろ、コンサルタントの基本スキルであるロジカルシンキング、プレゼンテーション能力などを持ち、どんどん「仕事を回せる人」を求めています。コンソーシアムの立ち上げも増えていますから、特定分野の中で注目される人材、鍵になる人材になることもできると思います。

田中:マネジメントはかなり大変そうですね。

三治氏:その通りです。先鋭的な技術に取り組んでいる人たちをマネージして仕事を回すのには苦労があることは確かです。心がけている点は二つあって、一つは透明性と信頼性を大切にしていること。本人にとっても、外部から見ても、納得のいく公平なマネジメントを志向しています。これは評価や人材育成という点でも意識していることです。もう一つは、「やりたい人を止めない」ことですね。

田中:情熱や意欲を冷やすようなことはしないと。

三治氏:そうです。一例をあげると、量子技術への熱意が非常に高い若手メンバー3人が、NEDOのプロジェクト「量子・AIハイブリッド技術のサイバー・フィジカル開発事業」に応募したいと言ってきたことがあります。それに先立ってはPwC全社の役員へのプレゼンテーションが必要だったのですが、事前レビューには私もつきあい、社内で許可が出て、NEDOのプレゼンテーションに参加することができました。すると、錚々たる研究機関などと並び、見事に案件が採択されたのです。(案件が)通ったときは涙ながらの連絡が来て、ちょっと感動的でした。その後はもちろん乾杯で祝いました。そういうドラマが各技術にあるのがTLの魅力でもあります。

田中:熱量の高い方々が自発的にやりたい仕事に邁進していることを非常に新鮮に感じます。一方で評価は非常に難しいだろうと推測します。

三治氏:難しいことは確かです。評価のベースはコンサルタントとしての能力ですが、個人の適性は人それぞれ違うものです。研究しながら社会実装もする。コンサルティングスキルを持って戦略から実装まで行う。ベーシックな事務局的スキルを持つ。シンクタンク的な発信力を持つ。いろいろなタイプの方がいます。また担当する産業やビジネスの成熟度も違いますから、それらを勘案して評価しています。

田中:したい仕事のある人の意欲を尊重し、専門領域から入って広い範囲にも携われるなど、キャリアアップや育成にも柔軟性を感じます。どのような例がありますか。

三治氏:ITやドローンを担当し、まったく空間情報は知らなかったシニアマネージャーに、空間情報分野のリーダーを任せた結果、ビジネスディレクターとして活躍されています。また先ほど申し上げたドローンの知恵袋的なメンバーはもともと保険業界にいた方で、PwCコンサルティングに入社後はロボットを担当していたのですが、ドローンを任せたところすっかりハマって、今ではドローン分野で抜群の人材になっています。

充実した設備のもと、先端技術を組み合わせて様々な社会課題の解決に挑戦します

大型の音響設備やスクリーン、シミュレーターなどがあり、XRの世界を体感できます

顧客だけでなく、社会に貢献する実感を得られる業務

田中:この対談をお読みになる方には、SIerなどでSEをされている方がたくさんいます。そうした技術者で、TLないしPwCコンサルティングに関心をお持ちの人には何を求めますか。

三治氏:基礎的資質としては好奇心が旺盛で、仕事への貪欲さ、吸収力の高さがあるといったところです。それがあれば年齢も関係ありません。50代で中途入社された方もいます。
あえて向いていない方を挙げるとすれば、「一人でやりたがる人」でしょうか。一人でも良い意見が出てくることはありますが、「さらに良くするためにどうすればよいか」を考えられることが大切だと思います。周囲の意見に耳を傾けられる素直さが成長の一つの鍵ですね。そういう人は楽しそうに仕事をしています。

田中:日々の仕事はどのようなものがありますか。

三治氏:国、民間に関わらずプロジェクトが多いので、それに沿って得意分野から入って社会実装に携わってもらっています。PwCは、Social Implementation Sprintという社会実装の方法論を持っていますから、それに関係した仕事が出てきます。社会実装においては上から下まで通貫するコンカレントな世界観を身につけてほしいと思っています。エッセンシャル8に力は入れていますが、エントリーレベルの業務もあれば、ユースケースもさまざまなので、仕事は多様です。

田中:ここはラボですから、デモなどをする場合はもちろん、リモートでの業務はむずかしいと思いますが、労働条件の面はどうでしょうか。

三治氏:勤務はTLも7:00から22:00の間でのコアタイムなしのフレックス制です。またラボには技術者が常駐していますが、リモートワークも活用し、通勤とリモートのハイブリッド環境で勤務しています。育児や介護に対応した短時間勤務や休職制度も完備していますから、個々人の条件やライフステージに合わせて働くことができると思います。

田中:SEは目の前の仕事に追われる傾向が強くなりがちなので、そうではなく、未来を見つめて今を考えるTLに魅力に感じる人も多いと思います。このほか、仕事でのモチベーションと言えば何ですか。

三治氏:まずはお客様に満足していただけること。そして国や社会に貢献しているという満足度が高いことですね。もちろん自分自身の成長という点もありますが、自分がどのように社会貢献しているかを実感できることは大きいと思います。意欲ある方々にTLの仕事に注目してもらい、飛びこんできていただければうれしいですね。

ライター プロフィール

織田 孝一(おだ・こういち)
1959年生まれ。学習院大学法学部政治学科卒業後、広告制作会社および人材採用サービス会社の制作ディレクターを経て、1989年にライターとして独立。ビジネス誌などの他、企業広報・採用関連の執筆も多い。現在注力しているジャンルは、科学技術、IT、人材戦略、農学、デザインなど。
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