
- 筆者プロフィール: ケンゾウ
- 大学院修了後、メーカーでエンジニアとして勤務。その後、外資系の戦略コンサルティングファームに転職。幾多の苦労を重ねながらも、数年間をそのファームで過ごした後に卒業し、現在は投資ファンドで働いている。
第51話
人気のプロジェクト
戦略ファームのプロジェクトのテーマ
こんにちは、ケンゾウです。前回のコラムでは、プロジェクトのアサインメントに関する話を書きましたが、今回もそれに関連するトピックで書いてみたいと思います。
戦略ファームが手がけるプロジェクトには様々なテーマがあります。中期計画の策定や、M&A戦略、新規事業の立ち上げ、業務効率改善、コスト削減、事業再生などなど。また、時代によって流行りというか、流れみたいものがあって、例えば少し前に多かったのは、新興国の攻略に関するプロジェクトです。ちょうど中国や東南アジアを新しいマーケットとして深耕しようと大企業が積極的になっていた時期ですね。また2000年代の後半には、日本でプライベートエクイティ投資が盛り上がった時期でもあり、ファンド投資前のデューデリジェンス(事業性評価)や投資後の経営改善に関するプロジェクトが多かったですね。
では、現場の若手コンサルタントには、どんなプロジェクトが人気なのでしょうか?もちろん人によってやりたいテーマは異なるのですが、私の周りのコンサルタントを見ていて感じたことを、あくまで私見で書いてみたいと思います。
どんなプロジェクトが人気?
話をシンプルにするために、戦略ファームの仕事をプロジェクトのテーマで非常にざっくりとタイプ分けすると、「攻めのプロジェクト」と「守りのプロジェクト」に分けることが出来ます。
「攻めのプロジェクト」とは、簡単に言うと売上を伸ばすための仕事です。新規事業の立案、M&A、マーケティング戦略、中期計画の策定などが代表的な例です。「守りのプロジェクト」はコストを下げて企業を筋肉質に変える仕事で、BPR(業務効率の改善)、調達コストの削減、事業売却による企業再編、SCMなどがあるかと思います。
私の印象で言うと、若手には、攻めのプロジェクトは人気が高く、守りのプロジェクトはあまり人気が無かったようです。攻めのプロジェクトの方が、前向きなテーマに感じられることや、戦略的な思考が求められるイメージがあるからでしょうか。守りの方は、特に最初の段階では数値による分析的なアプローチが求められ、作業量が多くなってしまう傾向があるためか、プロジェクトルームで黙々と作業を行うようなイメージがあるのかもしれません。私も若い頃は、そんなふうに考えていた部分もあったような気がします。
しかし、私自身、現在は投資ファンドの仕事を通じて投資先の経営にも関与しています。その立場になって思うのは、守りのプロジェクトには、すごくバリューを感じるということです。
攻めのプロジェクトというのは、確かに成長を目指す上では重要なのですが、その性質上、かなり不確実性を伴うもので、コンサルタントに依頼して作った計画も重要なのですが、それ以上に、実行をキッチリとやりきれるか、実行をしていく中で計画策定時の仮説が間違っていたことが判明した時に柔軟に戦術を変更できるか、といった部分がより重要になってきます。
一方、守りのプロジェクトの方は、攻めに比べると確実性が高いため、分析結果に則って施策を実行していけば、ほぼ期待通りの効果を比較的短期間で実現することが可能です。これは経営者にとっては非常にありがたいことです。わかりやすい例で言うと、調達コストの削減などは短期間で大きな効果が期待できるプロジェクトの代表例で、大企業であれば、数ヶ月のプロジェクトで数億円〜数十億円のコスト削減を実現できることは普通にあります。
例えば、営業利益率10%の会社があったとして、5億円のコスト削減(=5億円の利益増)と同様に効果を得ようとしたら、攻めのプロジェクトでは50億円の売上増(=5億円の利益増)を実現する必要があるのです。利益率5%の会社の場合は売上100億円増が必要なわけです。いくら大企業とはいえ、50〜100億円の売上増を数ヶ月で実現するのは簡単じゃないのは容易に想像がつくと思います。
若手にはあまり人気がなくても、パートナーやマネージャーが守りのプロジェクトを売ってくるのは、そのバリューを良く理解しているからでもありますし、クライアントに強いニーズがあるからなんだと思います。
ですから私は、若手のコンサルタントと話をする機会があると、守りのプロジェクトにいかにバリューがあるか、将来、戦略ファームを卒業した時に守りのプロジェクトの経験がいかに強みとなるかを話すようにしているのです。
(次回につづく)
バックナンバー
- 第60話 広がるポストコンサルの活躍の場
- 第59話 コンサルを使いこなす(その2)
- 第58話 コンサルを使いこなす(その1)
- 第57話 医者の不養生(コンサルタント編)
- 第56話 仮説思考のコツ
- 第55話 経営=サイエンス×アート
- 第54話 他コンサルから戦略コンサルへの転身
- 第53話 ファスト・トラッカー
- 第52話 圧迫面接って必要?
- 第51話 人気のプロジェクト
- 第50話 コンサルタントが改革したい会社...(その2)
- 第49話 コンサルタントが改革したい会社...(その1)
- 第48話 御曹司のコンサル修行
- 第47話 真逆の戦略で攻める!
- 第46話 アンケートの落とし穴
- 第45話 ナチュラルハイ
- 第44話 ホワイトボードを制するものは...(その2)
- 第43話 ホワイトボードを制するものは...(その1)
- 第42話 キー・スライド:究極の1枚
- 第41話 臨界点に達したか?
- 第40話 他人と違うところを探そう
- 第39話 さかなクンにみる差別化戦略
- 第38話 持つべきは信頼できるエージェント(その2)
- 第37話 持つべきは信頼できるエージェント(その1)
- 第36話 コンサルタントと起業家の違い
- 第35話 経営者には鈍感力が必要?
- 第34話 コンサルは経営者へのステップか?
- 第33話 コンサル会社は役に立たない?
- 第32話 罵倒されることでバリューを出す(その2)
- 第31話 罵倒されることでバリューを出す(その1)
- 第30話 なぜコンサル会社を使うのか?(その2)
- 第29話 なぜコンサル会社を使うのか?(その1)
- 第28話 使えるものは使い倒す
- 第27話 上司のマネジメント
- 第26話 自分の勝ちパターンを見つける
- 第25話 英語力はどれくらい必要?
- 第24話 エンジニアとコンサルの関係
- 第23話 コンサルはモラトリアム?
- 第22話 突き抜ける瞬間
- 第21話 コンサルは言いっぱなし?
- 第20話 オープンすぎる職場環境
- 第19話 戦略ファームの入社面接(その2)
- 第18話 戦略ファームの入社面接(その1)
- 第17話 戦略ファームへの入り方(MBA編)
- 第16話 戦略ファームへの入り方(中途編)
- 第15話 戦略ファームへの入り方(新卒編)
- 第14話 ヘッドハンターから声がかかる
- 第13話 よく働くのはどの国か
- 第12話 M系男子は戦略ファーム向き?
- 第11話 在職期間とその後のキャリアについて...
- 第10話 在職期間とその後のキャリアについて...
- 第9話 戦略ファームの社員旅行
- 第8話 アップ・オア・アウト
- 第7話 恋愛における問題解決スキル
- 第6話 コンサルタントは出世魚?(その2)
- 第5話 コンサルタントは出世魚?(その1)
- 第4話 戦略ファームでのワークライフ・バランス
- 第3話 衝撃の初プロジェクト(その2)
- 第2話 衝撃の初プロジェクト(その1)
- 第1話 戦略コンサルの実態を語ります!