
河津 隆洋 氏
社名のLIFULLに込められた思いは、「あらゆる人々の人生、暮らし(LIFE)を、安心と喜びで満たしていく(FULL)」。それを確かなテクノロジーで実現している。そこで、プロダクトエンジニアリング部の河津隆洋氏に同社の特色、事業内容、求める人材観などを聞いた。
不動産情報の先駆者として成長
かつて住宅や不動産に関する情報は、賃貸であれ購入であれ、住宅情報誌、店舗や展示場で入手するものが大半だった。それがインターネットを利用した検索に移行していったのが1990年代後半、現在ではスマートフォンからの利用が一般的になっている。
LIFULLはこうした不動産テック企業の草分け的存在で、同社の不動産・住宅ポータルサイト「LIFULL HOME’S」は、登録物件数の増加を続けるとともに着々と利便性も高め、業界屈指のサイトに成長した。
同社は社是として「利他主義」を掲げ、経営理念として「常に革進することで、より多くの人々が心からの『安心』と『喜び』を得られる社会の仕組みを創る」を掲げている。利用しやすい不動産情報ポータルサイトを目指すにとどまらず、介護施設情報ポータルサイト事業や地方創生事業などを展開しているのもこうした考え方が反映されているからだろう。2023年には伊東祐司氏が二代目社長に就任、さらなる成長をめざしている。
物件情報の精度、鮮度を追求

住宅や不動産物件は、他の商品にはない特性を持っている。
「典型的なものに、情報の非対称性があります。賃貸物件で言うと、既に入居者が決まっていたり、物件自体が存在しない、いわゆる“おとり物件”と呼ばれる物件が掲載されてしまうことがあります。このような、検索する上で利用者に不利益をもたらす情報は極力排除しなくてはなりません」(河津氏)。
また、地図検索をすると不正確な位置が出るといった場合もある。
「買うにせよ、借りるにせよ、“住む”とは、家以上に、地域に“住む”ことを意味します。ですから、最新の正確な地域情報を入手し、物件情報に付加していくことも大切です」(同)。
従って、LIFULL HOME’Sの開発においては、常に鮮度の高い(より新しい)物件情報を、より高い精度で提供するという、ユーザー視点を最も重視している。不断の努力が奏功し、2024年に行われたある調査では、数ある不動産ポータルサイトの中で、物件鮮度でトップの結果を得た。(※1)
「不動産事業にはオーナー、管理会社、仲介会社、保証会社など、ステークホルダーが多いのも特徴です」(同)。
ステークホルダーによって受ける影響も異なる。例えば、河津氏がかつて参加したハザードマップをサイトに掲載するプロジェクトでは、クライアント(物件を持ち、サイトに物件を登録する企業)によってはネガティブ情報にもなり得るため、掲載に前向きではない声も聞かれた。
「それでも、あるべき姿を追求しなくてはなりません。社内の関係部署が連携し、クライアントに納得していただくなど、チームワークでプロジェクトを進める努力が必要になります」(同)。
その結果、ハザードマップは業界に先駆ける機能の一つとなった。LIFULL HOME’Sの開発とは、こうした不動産や住宅ならではの特性を理解し、その情報提供において次々と出てくる課題を解決していくことだ。
先駆的不動産情報事業を技術で支える
物件情報の精度、鮮度の追及や、その過程で発生する課題解決を技術で支えるのが同社の技術部門である。
「私たちのサービスには大きく二種類のユーザーがいます。一つは、住宅や不動産情報をサイトへ登録する依頼者。私たちはクライアントと呼んでいます。もう一つは、サイトを検索して住宅や不動産を探す利用者、すなわちコンシューマーです。両方のユーザーが使いやすいプロダクトを開発しているのがプロダクトエンジニアリング部です」(同)。
LIFULLでは、基本的に企画、エンジニア、デザイナー、それに営業がワンチームとなってプロダクト開発に取り組んでいる。営業がクライアントのニーズをつかみ、企画がニーズや課題から今後の方針を決め、エンジニアが技術的な実現方法を検討し、デザイナーがユーザビリティ、ユーザーエクスペリエンスを追求する。四つの職種が意見をぶつけ合い、開発を進めているわけだ。
チームは、賃貸、流通、分譲戸建て、分譲マンション、不動産査定、注文住宅、iOS&Android、クライアント向けとサービスごとに組織しているが、それらに横串を通す役割も設け、機能やデータの共通化を進めている。
また、プロダクトエンジニアリング部が開発に用いるプラットフォームの拡充や、サーバ・データベースなどの構築をはじめ、QA・UX・アクセシビリティを専門としているチームとしてプロダクト開発・品質強化支援に携わっているのがテクノロジー本部だ。テクノロジー本部がインフラを含めたアプリケーション基盤を強化し、サービスの品質向上、プロダクトエンジニアリング部の生産性向上を支えている。テクノロジー本部にとってのユーザーはプロダクトエンジニアリング部をはじめ、プロダクト開発に関わる全ての社員というわけだ。

テクノロジー本部が担当しているものの一つにKEEL(キール)がある。(※2)KEELはKubernetesベースのin-housePaaSで、LIFULL HOME’Sの各プロダクトは、このKEEL上で稼働している。現在ではKEEL AIも開発され、社内での問い合わせ対応などに活用されている。
「ユーザーであるプロダクト開発チームやサービスを使うユーザー、不動産会社の方々に最高レベルの体験を与えられることと、自分の技術を向上させながら、基盤そのものの完成度を高めていけることが、テクノロジー本部のおもしろさであり、やりがいだと思います」(同)。
プロダクトエンジニアリング部とテクノロジー本部は合わせて数百名におよぶ。
このほか、分析用のデータを整備するグループデータ本部、AIなど最新技術の活用に携わるイノベーション開発部などテクノロジー別でも部門が存在し、必要に応じて連携している。
日常となっているグローバル開発
現在のLIFULLは、日本と海外のエンジニアが共同して仕事を進めるグローバル開発スタイルが根付いており、ベトナム(ホーチミン)、マレーシア(クアラルンプール)に開発拠点を設置、あわせて100名近くの体制になっている。
「解決すべき課題はどんどん増えていく一方で、日本国内では労働人口が減少し、人材獲得競争が激化しています。海外に開発拠点を設置したのは、世界から優秀な人材を集めるべきだと考えたからです。拠点をアジアに開設したのは時差が小さいというメリットが大きいですね」(同)。
また、海外拠点を「オフショア」とは呼ばず、日本のエンジニアと海外のエンジニアがワンチームとして動く。その際の言語の壁は、KEEL AI搭載のSlackツールを活用して乗り越えている。
「仕様を日本語で打ち込めば外国語に自動翻訳されて相手に伝えられ、逆に外国語から日本語へも自動翻訳されて伝わります。もちろん、必要に応じて英語を学ぶ機会や、海外拠点で勤務する機会も提供しています」(同)。
ビジョン経営を掲げ、利他の行動を歓迎する風土
LIFULLでは、社是や企業理念に沿って、課題を解決したり、事業を進化させるにはどうしたら良いかを探り、実行していく流れになる。そして、社員が起案しやすいのは大きな特色だ。
「こうしたらより良くなる、だからこういうことをしたい、という提案を歓迎する社風です」(同)。
現在全社基盤となっているKEELも、相原魁氏(テクノロジー本部 事業基盤ユニット)が入社4年目にして、長沢翼氏(CTO)に提案した個人プロジェクトから始まったものである。これほど大規模ではなくとも、LIFULLには、社員からのさまざまな提案、改善を積極的に受け入れる土壌がある。
このことはLIFULLが早くから、経営ビジョン・カルチャーを最重要事項として会社の隅々まで浸透させてきていることにもつながる。
「当社に応募するエンジニアには、自分の技術やスキルを、何に対してどのように役に立てられるか、を強く意識する人が多いと感じます」(同)。
河津氏自身もSIerからの中途入社だが、経営理念に魅力を感じたことが大きな入社動機となった。
「不動産業界についてはまったく知りませんでしたが、世の中を良くしたい、という創業者の理念に引かれ、自分も技術で貢献したいと思い、入社を決めました」(同)。
同社は、技術負債の解消にも熱心に取り組んでいるが、そこにもビジョン浸透の一端が垣間見える。
「CTOの『エンジニアが経営をリードする、一人ひとりがそうしたエンジニアになろう』という考え方をメンバーに浸透させることに取り組んでいます。技術負債の解消についても、いかにそれが利益創出につながるかを定期的なビジョンシェアリングの時間に伝えています。そして、技術負債を減らしたり、開発生産性を高めたメンバーを称賛、評価しています」(同)。

スキルアップやキャリアアップへきめ細かく配慮する
エンジニアのスキルアップ、キャリアアップにももちろん力を入れている。
まず、個々の目標を設定するときに、LIFULLでは、そのエンジニアがもともと持つスキル、能力よりも若干高めの目標を立ててもらい、成長を促すようにしている。
「目標設定時には必ず「キャリアデザインシート」を書いてもらいます。そして、上長との1 on 1面談を定期的に行い、キャリアアップが実現できるよう後押ししています」(同)。
また、管理職やCTOをはじめとするエンジニアのスペシャリストが、キャリアアップやスキルアップに悩みを持つエンジニアに1 on 1で相談に乗る「エンジニアキャリアクリニック」という仕組みも用意している。
そして、業務時間の数%を、所属部署とは異なる部署の業務に充てられる「キャリフル」という社内兼業制度もある。この活動で視野を広げるとともに、部署異動や職務の転換につなげることもできる。
さらに、新たな仕事や役割に取り組めるチャンスもある。例えば、プロダクトエンジニアリング部では、技術負債解消計画書を作成し、何から着手すべきか、どうアプローチするのか、の二つの視点を可視化しているが、その上位3~5つに対して生産性を上げるアイデアを募集し、手を挙げて参画したエンジニアに対応を任せている。これにより、エンジニアが新たなスキルを身に付けたり、新たな役割を経験することができるようになっている。
ビジョン、カルチャーフィット重視の採用方針
同社の中途入社者の前職を見ると、プロダクトエンジニアリング部にしてもテクノロジー本部にしても、もちろん事業会社出身者もいるが、SIerからの転職者が少なくない。
「SIerで仕事をするうちに、自分で何か事業のプロダクトを作りたい、成長させたい、という思いが募ってくるのかもしれません」(同)。
選考にも大きな特徴がある。面接では、まずビジョンフィット(理念への共感度合い)、カルチャーフィット(社風との相性)を確認し、そのうえで、テクノロジーマッチを見ている。技術力を最重視していないのは、技術力が高いIT企業の中途採用としては珍しい。
「ビジョンとカルチャーがマッチしていれば、少々技術力が足りなくても大丈夫と考えています。技術は入社後に社内で身に付けるチャンスがたくさんありますが、ビジョンやカルチャーとの相性を後から身に付けることは難しいからです」(同)。
河津氏は、これまで長く面接してきた経験から、ビジョンやカルチャーでのフィット感が高い人ほど、能動的で、成長も速いと感じている。
LIFULLは、不動産テックのリーディングカンパニーとして、開発スピードの速さや、数々の「業界初」を送り出してきた点で他社とは一線を画している。
それに甘んじず、伊東祐司社長は同社を、不動産情報企業を超えた「事業を通して社会課題を解決するソーシャルエンタープライズ」と位置づける。地方創生事業を軌道に乗せたり、能登半島地震の被災者向け住宅特設サイトを立ち上げたのもこうした理念の表れだろう。
これはまた、同社で人材が活躍できる場がより拡大、発展していくことを意味していると言える。
「世の中を良くする、そのために技術力を発揮したい、そんなマインドを持つ方に来ていただければうれしいですね。と言っても、気負う必要はありません。不動産業界の経験・知見の有無はあまり意識せず、思いを同じくする方はぜひ応募してほしいと思います」(同)。
※1:LIFULL HOME’Sが不動産ポータルサイトで「物件鮮度No.1 」獲得
https://lifull.com/news/35064/
※2:LIFULLのモノづくりを加速させる、プラットフォームを作る。
https://corp.lifull.com/n/n88d5a90a3527
ライター プロフィール
- 織田 孝一(おだ・こういち)
- 1959年生まれ。学習院大学法学部政治学科卒業後、広告制作会社および人材採用サービス会社の制作ディレクターを経て、1989年にライターとして独立。ビジネス誌などの他、企業広報・採用関連の執筆も多い。現在注力しているジャンルは、科学技術、IT、人材戦略、農学、デザインなど。
リーベルコンサルタントから一言
不動産・住宅情報サービスをリードする企業として成長してきたLIFULL。
社名に込められた思いと共に、現在は介護施設情報ポータルサイト事業や地方創生事業なども展開し、多くの方が「安心」と「喜び」を得られる社会づくりに貢献していらっしゃいます。
また社風面では、経験だけでなく社員のやりたいを大切にし、成長を支えてくださる会社です。
ご自身の技術力を武器に、より良い社会の実現を目指したい方は是非、LIFULLをご検討ください。