武藤 覚 氏
日本独自の形態とも言われる総合商社が手がける事業領域は広く、活動は国内のみならずグローバルにわたる。これは戦後、日本が世界トップクラスの経済を築いた力の源泉の一つとも言えるだろう。あらゆる産業でIT活用が進み、DXによって新たな価値創造が行われている今、総合商社が培ってきたビジネスノウハウ、ヒト・モノ・カネのアセットに、最新テクノロジーを組み合わせれば、これまでとは質的に異なる事業強化、業務改善、新規事業開拓なども可能になる。
こうした発想から総合商社の丸紅が2020年に設立したのがドルビックスコンサルティング(以下DOLBIX)である。社外のファームに頼らず、グループ内のファームでDXを内製する方針を取ったのは、その知見やノウハウをグループ内に蓄積できることが大きい。加えてグループにコンサルティングの専門企業があることで、グループ各社や取引先企業に対し、迅速で効果的なDX支援が可能になる。同社は今年創業5年目を迎え、IT系人材の採用強化に乗り出した。そこで取締役COOの武藤覚氏に、同社の特色、強み、人材強化のねらいなどについて尋ねた。
※法人名、組織名、役職およびインタビュー内容は取材当時のものです。
構想提案から実現まで担う総合商社系コンサル
取締役COO
武藤 覚 氏
DOLBIXは設立5年を経て着実に成長し、規模を拡大している。社員数は現在、コンサルタント人材150名以上、これに役員や管理系人材も加えて170名前後。「2024年度までの実績でプロジェクトは累計400件以上、2025年度には累計500件を超えると予想しています」と武藤氏は語る。
DOLBIXの具体的な事業コンセプトは大きく三つある。まず、丸紅グループのICT事業会社群と連携してDXソリューションを提供すること。グループには例えば丸紅ITソリューションズ、丸紅情報システムズ、丸紅ネットワークソリューションズなど、ITの専門性を持つIT企業があり、コンサルティングの先にあるITの実装工程ではこれらの専門技術を活用できる。次に、DXコンサルティングによって、丸紅グループの事業資産をバリューアップすることだ。第三は、丸紅グループ内の企業を対象とした案件を通じて蓄積した独自の知見やノウハウを、グループ外の企業に展開することである。「グループ外への外販比率は2023年度には4割弱でしたが、2024年度には5割近く。2025年度は5割超えを目指す計画です」。内販もまだ伸長の余地があるが、将来のどこかで頭打ちとなることも避けられない。そこで丸紅グループというアドバンテージを活かしつつ、自立的な企業体質を作り出している。
サービス領域としては大きく五つある。「DXコンサルティング」と「ITコンサルティング」はテクノロジーを中核とし、二つの領域で売上高の7、8割を占めている。他の三領域が「経営戦略コンサルティング」、「M&Aコンサルティング」、「組織人事コンサルティング」で、これらは経営戦略・経営管理系である。
ではコンサルティング業界全体の中で、DOLBIXの位置づけはどうなのかを見ると、かなりユニークであることがわかる。日本のコンサルティングファームには総合系、総研系、SIer系など、さまざまなタイプがあるが、DOLBIXは総合系ファームの一つ。「仕事のやりかたとしては、構想や戦略の提案に特化して実現はクライアントに任せる(ハンズオフ型)のではなく、実現まで伴走する(ハンズオン型)案件が多いですね。丸紅グループのインハウスコンサルとしての顔も持つため、内部者として構想策定から価値創造の実現まで深くコミットするわけです」。
丸紅の巨大な事業資産を活用
DOLBIXの強みはどこにあるのだろうか。
「最大の強みは、丸紅グループ内で培った変革の知見と丸紅の事業資産を組み合わせ、グループ内外にサービスを提供できることだと思います」。DOLBIXは、DXによる丸紅の変革の支援を手がけるだけに、机上の空論ではなく、現実に即した戦略提案とその実現に取り組み、そこで得た知見が蓄積されている。
また丸紅グループの事業資産は多岐に渡り、グローバルに広がる。ライフスタイル、情報ソリューション、食料・アグリ、エネルギー・化学品、電力・インフラなどの事業とそれを手がける部門、そして傘下の事業会社がある。国内外で130拠点、連結対象会社は500社におよび、日々事業が営まれている。この巨大な事業資産を活用できることは、他ファームにはないDOLBIXの強みだ。
丸紅の事業資産はDOLBIXにとって、次の三つの側面を持っている。
【独自の知見やノウハウを蓄積できるコンサルのフィールド】
DOLBIXには、丸紅からさまざまな課題について相談が寄せられる。その中で社外にも展開可能な知見・ノウハウを獲得できる。
【ソリューションとなる商材や事業投資の知見の集積】
具体的にはIT製品やSIの商材、事業投資の知見などである。丸紅グループには数々のICT企業がある。また投資を含めた事業開発、M&Aなどがさまざまな状況の中で実施されている。
【ビジネスのポテンシャルを高める商社の取引先ネットワーク】
丸紅の取引先はあらゆる業界に広く存在する。こうした企業はDOLBIXにとっての潜在顧客や協業パートナーであり、丸紅グループ各社から紹介を受けることができる。これは他のファームにない強みである。
知見と事業資産を融合した例としては、丸紅が扱う環境に優しいバイオ航空燃料(SAF)をサプライチェーンに組み込み、外部企業も巻き込んだビジネス開発を戦略策定から実行まで伴走支援している案件がある。
ITと事業投資に関する知見を活かす
DOLBIXが特にIT(ICT)領域で携わった具体的なプロジェクトとしては、次のような例がある。
- 『基幹システム刷新構想策定(現状分析、RFP作成、ベンダー選定、PMOなど)』-外販-
「複数の中堅企業(売上高数100億~数1000億円クラス)に実施しました。基幹システムに課題を抱えている中堅企業は数多く、DOLBIXの顧客としてこれからも力を入れていきたいと思います」。 - 『電力プラントの構内無線ネットワーク構想策定・構築支援・構築後のDX支援』-外販-
- 『M&A時のITデューデリジェンス、M&A後のIT-PMI、ファンド投資先のITスタンドアロン化』-内販・外販-
「M&Aに際し、ビジネスや財務のデューデリジェンス(適正評価)のみならず、ITデューデリジェンスの重要性が高まっています。またM&A後のシステムや業務の統合にも携わります。ITスタンドアロン化では、大企業傘下のある企業がファンドの投資によってカーブアウト(分社化)され、属していた大企業のITインフラと切り離されたときに実施した例があります。ITとM&Aに関する高い専門性を必要とする案件なので、当社だからこそ実現できたと思います」。 - 『CIOアドバイザリー・IT組織運営(IT中計策定、グループITガバナンス、セキュリティ教育など)』-内販-
「丸紅の情報システム部門を支援し、ITを運用するときの基準などを策定しています」。 - 『親会社から子会社への商圏移管、または子会社間の事業移管に伴う業務プロセス再構築・システム整備』-内販-
- 『生成AI活用(生成AIチャットボットを活用した業務効率化とナレッジ共有の全社展開・現場定着支援)』-内販-
「生成AIの活用はいまやビジネスでも不可欠。業務での利用普及を促進することを支援しています。さらに、市場調査やM&Aターゲット候補選定など、事業投資の実務に耐えられるような応用も進めています」。

広範なプロジェクト、上流工程に携わる魅力
DOLBIXでは現在、IT人材の採用を強化している。武藤氏はその背景をこう語る。
「第一に、企業活動におけるITの重要性がますます高まり、コンサルティング需要も旺盛なこと。第二に、創業以来、DX案件を中心に独自性を発揮してきたので現状はIT案件の市場シェアは低いのですが、今後の成長を促すためにもITの強化を図るべき時だと判断したこと。第三に、日本のIT系人材はITベンダーやコンサルファームに多く、また流動しているので、当社で働く魅力を労働市場に伝えれば、人材をスムーズに獲得できると考えたことです」。
IT人材(IT系コンサルタント)がDOLBIXで働く魅力、やりがいとして武藤氏は5つの点を示した、「総合商社の戦略をITで実現できる」、「基幹システムなどのバックオフィス系のコーポレートITからフロント系のビジネスIT、さらにDXまで幅広く手がけられる」、「調査分析や構想策定など上流工程の案件が数多くある」、「プロジェクト型とハンズオン型(PMO型)の両案件がある」(*1)、「グローバル案件に従事するチャンスがある」である。
他のファームの案件では見られない成功例として次の二つを上げておこう。
一つは、出版流通におけるDXによる新規事業だ。出版不況が続く中、丸紅と大手出版社3社が合弁事業を立ち上げた。その中でDOLBIXは、RFIDを活用し、サプライチェーンを横断してデータを収集、活用できるプラットフォーム構築を構想の段階からサービスの立ち上げ、事業運営まで一気通貫で支援した。「出版流通の川上から川下までの全体のトレーサビリティ情報を活用し、在庫適正化、入荷・棚卸し等の業務効率化、書店での万引き防止などが可能になる」。
もう一つの事例として、産業設備のアフターサービスを変革した案件がある。丸紅グループの機械商社が、飲料メーカー向けに提供するペットボトル製造設備について、メンテナンス履歴や技術スタッフの対応記録などアフターサービス関連情報を一元化し活用するプラットフォーム構築を支援した。その結果、「技術スタッフの修理・点検業務の効率化、担当営業やコールセンターの負荷軽減、製造工程のダウンタイム低減を実現。さらに飲料メーカー向けに蓄積データを有償提供することにより、新たなビジネスにも寄与しました」。
現在、同社が求める人材の中心は、ITコンサルタントをめざす若手や第二新卒である。「創業直後はコンサルティングの経験が豊富なシニアメンバーをキャリア採用で獲得し、続いて若手を採用してきました。昨年から新卒採用も始めました。キャリア採用に関しては、IT知識のあるコンサルタント未経験者を一人前のコンサルタントに育成することに力を入れていきます」。
新卒の場合、論理的な思考力、問題の本質を洞察する分析力、人や組織を動かせるコミュニケーション能力、新しいことへの挑戦を楽しめる積極性などを重視しているが、キャリア採用では、これに加えてITの基礎知識や特定の業界・業務知見、ITプロジェクト経験などを併せて判断している。

これまでのキャリア採用者の例を見ると、[SIer→ITコンサル→当社]、[ITコンサルA社→ITコンサルB社→当社]、[通信会社(ネットワーク構築)→当社]、[事業会社IT部門→当社]といったさまざまなキャリアチェンジの例がある。いずれも、担当業界の幅を広げることや、企業経営・ビジネス視点での課題解決、企画・構想などの上流工程への志向などが転職へのモチベーションになっているようだ。
「応募者の動機は、他にも、『ERPの導入コンサルをしていたが、ソリューションの幅を広げたい』『SIerでSEやPMをしていたが、コンサルタントとしてキャリアを築きたい』など人によってさまざま。最近は、『ITプロダクトを扱ってきたが、自社製品だけに閉じずに顧客課題の解決をめざしたい』という人もいます」。
主眼はテクノロジーでビジネス課題を解決すること
DOLBIXを他のコンサルファームと比べたとき、丸紅の100%出資会社である信頼度は大きい。
また、大手コンサルファームでは、投資額の大きい案件しか受注しないこともあるが、DOLBIXの場合、地方企業、中堅・中小企業などの要望にも積極的に応えている。必要に応じてITやDXだけでなく、人材戦略立案や人事制度改定などに関わることもある。
つまり、「コンサルティングの目的は経営課題の解決。そのためにテクノロジーがある」ことが、DOLBIXの基軸なのである。
従って志望者には、特定の技術やスキルよりも、基本的なIT知識や経験があり、上流工程への志向、事業への広い視野を求めている。
「当社はまだベンチャーステージなので、一人の裁量や責任が大きい企業です。それを引き受ける意志のある方に期待しています」。採用後も、育成のための研修が充実しているほか、極力、前職の経験が活きる案件にアサインしている。
創業期のDOLBIXは、DXコンサルティングが事業の中心だった(同社では、“DXネイティブ”と呼んでいる)が、現在はITコンサルティングも強化し、この両輪を発展させようとしている。
武藤氏はこれからのIT人材にこうエールを送る。
「ITのバックグラウンドのある方が、コンサルタントとして多様な業界に貢献していける場があります。DOLBIXも成長途上にありますから、コンサルタントとして成長し、会社の成長の一翼を担っていただけたら幸いです」。
(*1)総合コンサルティングファームは、プロジェクト型コンサルティング企業と、PMO型コンサルティング企業に分けられる。前者は仮説検証型、プロジェクト単位の支援といった特色があり、後者は、体制中心提案、スコープレス支援といった特色がある。PMOを中心に支援するファームと違い、DOLBIXはPMO案件であっても、課題管理や進捗管理にとどまらず、顧客の現場に入り込んで課題解決まで実施することが多い。これはDOLBIXが創業の時点から、丸紅と共に事業を創造していくスタンスがあることが大きい。
ライター プロフィール
- 織田 孝一(おだ・こういち)
- 1959年生まれ。学習院大学法学部政治学科卒業後、広告制作会社および人材採用サービス会社の制作ディレクターを経て、1989年にライターとして独立。ビジネス誌などの他、企業広報・採用関連の執筆も多い。現在注力しているジャンルは、科学技術、IT、人材戦略、農学、デザインなど。


リーベルコンサルタントから一言
ドルビックスコンサルティングはコンサルティング業界において独自の立ち位置を築いている企業です。
原則、商社の仕事とコンサルティングファームの仕事は分かれているものなのですが、ドルビックスコンサルティングにはその垣根がありません。
一般的には、職業選択時に事業会社かコンサルティングファームか、という選択を迫られるものですが、ドルビックスコンサルティングであれば、コンサルタントでありながら商社が行う事業投資やグロース対応などをハンズオンで行っていくことが可能です。
もちろん、コンサルティング業務は多岐に亘るものであり、アジェンダも様々ではあるのですが、商社の事業やアセットを活用したコンサルティングを経験できるのはコンサルティング業界においても唯一ともいえます。
新たにコンサルティングに挑戦したい方はもちろん、ITやコンサルティングの枠に収まらないチャレンジをしたい方はぜひドルビックスコンサルティングをご検討ください。