心理学から学ぶ新・仕事術

現代に生きるビジネスパーソンへ。心理学からアプローチした仕事術をお伝えします。

第2話

「どうせ私なんて」という罠

— 認められたいのに認めてくれない…負のスパイラルに陥らないために —

「どうせ」という言葉を使いたくなる時

前回に引き続き、モチベーションについて考えてみましょう。「仕事は嫌いじゃないけどあまり頑張る気にならない。そこそこ働くのが一番いい。」と言う方がいました。仕事で大事なことは期待される成果を上げることなので、成果さえあげていれば頑張ろうと頑張るまいと関係ないという考え方もあります。でもなんとなくひっかかる部分があったのでしばらく話を聞いていると、「頑張ってもどうせ誰も評価してくれない。」「どうせ私なんて必要とされていないんだ。」といった言葉が出てきました。

どんな時に、私達は「どうせ」という言葉を口にするのでしょうか。それは、自分(の努力)が認められていない時です。この場合、「今まで頑張っても誰も認めてくれなかった。だとするならばこの先頑張ったとして、どうせ誰も認めてくれないだろう。」と解釈することができます。

認められたいという気持ちとは何か

私達は誰でも、「承認欲求」という周囲の人に認められたい願望を持っています。周囲から認められると、自信につながるだけでなく、もっと頑張ろうという前向きな気持ちになることができます。周囲から認められる経験は、仕事だけではなく、私達がより良く生きていくためには不可欠です。例えば、子育てにおいても、「褒めて伸ばす」ことの大切さが繰り返し指摘されています。褒められることを通じて自分が認められたと思える経験は、人が伸びていくための土台となるからです。

認められないと何が起こるのか

認められない場合、どうなってしまうのでしょうか。「どうせ」という言葉が出てくるのは、認められたいという気持ちがあったにもかかわらず、認められなかった時です。その時は「自分はダメなんだ」と自信をなくし、落ち込みます。そして、「あいつは私のことなんかどうでもいいと思っているんだ」といった他人を責める気持ちが強くなります。そして、冒頭の「どうせ私なんて」という発言につながります。

認められない経験から派生する「どうせ」は長く続くと相手に伝わり、まず相手との関係が悪化するきっかけとなります。「どうせ」という語感に含まれる投げやりな感じや相手を批判する感じは相手に不快感をいだかせ、相手も悪い印象を持つようになります。

「どうせ」の罠

「どうせ」と思う瞬間があることは実は決して悪いことではありません。何故なら、認められたいという気持ちがあった証拠であり、その背後には、頑張ったという経験があるからです。つまり、認めてもらいたいという行動とその仕事の成果があったということです。従って、「どうせ」と思う瞬間を持たないようにするのではなく、「どうせ」という罠にはまり続けないことが大切です。

ここでいう「『どうせ』という罠」とは、やっても意味がないのだからやらなくなるのと同時に、相手を批判して相手との関係を悪化させ、その結果もっと認められにくくなるといった負のスパイラルに陥ってしまうことです。こうなってしまうと、何が原因で何から手を付けたら現状から脱却できるのか、問題解決の糸口を見つけ出すのが難しくなります。

「どうせ」の罠にはまり続けない

そうならないために、どんなことができるでしょうか。いくつか方法はありますが一つだけ挙げてみましょう。それは、自分のことを認めてくれている人は本当にいないのか、改めて周囲を見回すことです。

ビジネスマンの多くは、自分のことを評価してくれる上司に認められたいという願望を持っていると思います。それは当然のことですが、自分を認めてくれる対象を上司だけに限定する必要はありません。

周囲を改めて見回すと、自分がその人に認められてもうれしいと感じていなかっただけで、認めてくれている人は案外いるのではないでしょうか。「どうせ誰も私のことなんか認めてくれないんだ」と思った時こそ、「本当にそうなんだろうか」と振り返ってみてはどうでしょうか。自分の気持ちをラクにするきっかけは、ちょっとした振り返りによってもたらされることは少なくありません。

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筆者プロフィール

坂爪 洋美
坂爪 洋美
法政大学キャリアデザイン学部 教授
慶應義塾大学大学院経営管理研究科博士課程修了 経営学博士。専門は産業・組織心理学ならびに人材マネジメント。主要な著書は『キャリア・オリエンテーション』(白桃書房、2008年)等。
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