心理学から学ぶ新・仕事術

現代に生きるビジネスパーソンへ。心理学からアプローチした仕事術をお伝えします。

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第19話

リアリティ・ショックから見えること

— モチベーションの低下を防ぐために —

こんなはずじゃなかった

新入社員や転職をして新たな会社でスタートを切られたみなさんにはまだまだ全ての経験が新鮮な頃、そして4月に職場を異動された方にとっては「少し慣れてきたかな」という感覚を持つ頃ではないでしょうか。今までと異なる経験をしたとき、私達は「ああ、そうなんだ」「こういうものなのか」といった驚きを感じます。驚きのひとつが「こんなはずじゃなかった」です。

思っていたのと違う

人は新しい環境(会社や職場)に入る前に、「新しい職場はこんな感じかな。任される仕事はこんな感じかな。」というイメージを自分なりに持ちます。例えば「入社したばかりの新人なんだから、担当する仕事について細かく教えてくれるだろう」というイメージを持ちます。そして新しい環境に入った時に、そのイメージと現実のすり合わせを行います。多くの場合イメージしていたような現実は起きないので、すり合わせると「あれ、思っていたのと違う」という感覚を持ちます。

先ほどの例を用いると、「すぐに仕事が割り当てられると思ったのに、仕事が割り当てられない」「細かく教えてくれると思ったのに、『やってみればすぐにできるから』と教えてもらえなかった」といった現実に直面し、「思っていたのと違う」「こんなはずじゃなかった」という感情を抱くのです。

リアリティ・ショック

この「(現実の仕事や職場・会社が)思っていたのと違う」という経験を、心理学では「リアリティ・ショック」と呼びます。リアリティ・ショックは主に新入社員の問題と捉えられてきました。新入社員は働くことも会社も初めてで、リアリティ・ショックを感じやすく、リアリティ・ショックが安易な退職に繋がるからです。

ですが、リアリティ・ショックは新入社員だけの問題ではありません。転職や異動など、新しい環境に入る人全ての問題です。私もちょうど1年前新しい大学に着任し、大小様々な「思っていたのと違う」「こんなはずじゃなかった」を経験しました。

自分のリアリティ・ショックを眺めてみる

その時のリアリティ・ショック経験についてリストを作成してみました。リストには、(1)思っていたのと違ったこと、(2)その時感じたこと、という2つを書きました。例えば4月当初ですと(1)には「研究室のPCのLANへの接続方法の説明がなかった」「授業に必要な機材の借り方のレクチャーがなかった」といった「必要なことを教えてくれない」ことが、(2)には「新任の教員はわからないことだらけであることは、みんな経験的に知っていることなのに、何故教えてくれないのか?」という不満が書かれていました。

自分で書いたものを眺めるうちに、「『聞かなきゃ教えてくれない』と割り切って、あれこれ質問する。その中から『何かあったらこの人に聞く』という人を見つけ出す(きっとその人は仕事ができる人のはず)。困っている人への対応から相手の性格をつかむ。」ことが私の目標となりました。着任したての私があれこれ聞いても周囲は不思議には思いません。

もうひとつ、私が欲しいのは「わからないことがあったらいつでも聞いてください」という一言だと考え、教えて下さった方々に「ありがとうございます。本当に助かりました。またわからないことがあったら聞いてもいいですか?」と必ず伝えるようにしました。中には「それは勘弁」という顔をする方も少数いますが、ほとんどの方は「いつでも聞いてください」と笑顔で答えて下さいました。

リアリティ・ショックを過度に恐れない

リアリティ・ショックの問題はそれが蓄積すると、「この職場は自分には合わない」「自分の選択は間違いだった」というように、モチベーションの低下や離職につながることです。だから私達はリアリティ・ショックをなくすためにはどうしたらよいかを考えます。

ですが、リアリティ・ショックを通じて見えてくることもたくさんあります。何にショックを感じるかを通じて自分が求めていることが見えてきます。ショックの乗り越え方を考える中で、今しかできないことがあることに気づきます。そうするとショックを感じた現実の見え方が変わってきます。リアリティ・ショックを今感じている皆さん、リアリティ・ショックをうまく活用してみてください。

まとめ

  • 新しい職場に入った際には、「思っていたのと違う」「こんなはずじゃなかった」というリアリティ・ショックを経験する。
  • リアリティ・ショックが積み重なると、仕事へのモチベーションが低下したり、職場の人間関係がうまくかない、退職したくなるといった結果が生じる。
  • 従ってリアリティ・ショックは一般的に避けなければいけないと考えられているが、経験を通じて自分自身が求めていることが見えてくる等、新たな発見がある。

筆者プロフィール

坂爪 洋美
坂爪 洋美
法政大学キャリアデザイン学部 教授
慶應義塾大学大学院経営管理研究科博士課程修了 経営学博士。専門は産業・組織心理学ならびに人材マネジメント。主要な著書は『キャリア・オリエンテーション』(白桃書房、2008年)等。
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