COLUMN
コラム:転職の技術
第729章
2015/12/25

2015年 IT業界のこの1年

— 経験の広さと高さが求められる時代を生き抜く —

2015年のIT業界を振り返って

昨年末も私が年内最後のコラムを書いたのですが、あれからもう一年経ってしまったことに驚きを隠せません。子供のころは人生を永遠に感じていたものですが、最近は、まさに光陰は矢の如く過ぎ去るものであることを実感する日々です。

さて、今回は昨年とは趣向を変え、IT業界のこの一年を振り返ってみたいと思います。

2015年が始まったころは、2015年問題とか2016年問題と言われていたように、マイナンバー対応や金融機関の合併といった大型プロジェクトが終了し、それに伴って大量の人余りになることが懸念されていたのですが、蓋を開けてみれば、人余りどころかますます売り手市場感が高まっているという結果になりました。

その背景としては、電力自由化や地方再生といった動きがあったり、IoTやFintecといった新たな技術・コンセプトが出てきたことにより、製造、流通、金融、小売、食品、公共などのあらゆる業界でITニーズが喚起されたことが挙げられます。

また、作られるシステムのバリエーションも増えており、特に情報系と呼ばれる集計・分析システムであったり、最適化アルゴリズムやレコメンドエンジンを駆使したシステムを構築する企業が増えてきました。LTEやMVNOといった通信インフラの発展に伴ってスマホやタブレットをPCの代替として使う人たちも右肩上がりで増えており、そういった種々のデバイスに対応するアプリケーションを作るべく、新しい言語やツールを採用する企業も増えています。

一方、今年はクラウドの驚異を感じた方も少なくなかったのではないでしょうか。前述の様なITニーズを実現するにあたり、まずはクラウド活用が検討の俎上に載るようになってきました。先日、デルがEMCを傘下に収めるという史上空前のM&Aが行われましたが、これも、台頭するクラウドベンダーに対する危機感の最たるものと言えます。

この様な世の中の動きを受け、企業の動きにも、転職者の動きにも変化が見られました。

企業の動き

例えば、業務アプリケーションの導入をメインで行い、インフラは他社に任せていた企業から、クラウド活用のためのコンサルタント・エンジニアの募集が徐々に出てきました。

また、自社でクラウドサービスを提供している企業からは、インフラエンジニアだけでなくアプリケーションエンジニアの募集が数多く出てきており、自社サービスの拡張を急ピッチで進めているという現状が垣間見えます。

ソフトウェアベンダーやハードウェアベンダーでは、製品だけでなくソリューションの提案が出来る営業であったり、他社製品も含めて提案ができるプリセールスの募集が増えてきており、SIerでは、コンサルティング経験のある人材の獲得に乗り出すところが増えてきました。

コンサルティングファームでは、デジタルマーケティングやデータアナリティクス、サイバーセキュリティ、IoTといった新しい分野のコンサルティングができる人材のニーズが高まっており、それに伴って、これまで余り転職者事例の少なかったWeb系企業からも積極的にコンサルタント予備軍を受け入れています。

Web系の企業では、最新の技術に対するアンテナが高く、かつ、アプリもインフラも両方できるフルスタックエンジニアのニーズが高まっていますし、サービスを早く小さく立ち上げ、爆発的にサービスを成長させることが出来るグロスハッカーの募集もちらほらと出始めています。

そして、事業会社は内製化に力を入れ始め、クラウドやIoTといった技術動向に敏感で、新しい取り組みに積極的に関わり、必要に応じて手を動かして素早くアプリを作れる様なエンジニアの募集を始めています。

転職者の動き

そういった企業の動きを察してか、このままでは危ない!という思いを持って転職活動をする方が増えてきているように思います。

アプリだけをやってきた方の中には、インフラもできるようになりたいという方が増えてきていますし、逆にインフラだけやってきた方の中には、アプリをこれからやりたいという方が増えてきています。

また、業務系システムだけでなく情報系システムに関わりたいとか、逆に情報系システムだけでなく業務系システムにも関わりたいと思われる方も増えてきています。システム導入が始まる前の段階から関わり、最新の技術を提案できる人材でないと今後は生き残れないという危機感のもと、ITコンサルタントへ転身したいという方も相当増えてきています。

特に危機感が強いのは、クラウドやオフショアに取って変わられてしまう可能性のあるエンジニアの方です。クラウドのサービスは日進月歩であり、従来導入に莫大な時間と費用を必要としていたITサービスが、一瞬で、しかも格安で手に入れられるようになってきていますし、オフショアについても、長年の各社の努力の甲斐もあって、かなり品質が良くなってきています。そのため、これまで『どう作るか?』に注力していた方々が、『何をすべきか?』を考え提案できる人材にならなければ生き残れないという危機感をお持ちになっています。

来年に向けて

しかしながら、市場の変化に素早く対応する企業の動きに、いますぐついていける人はそう多くはありません。企業は、新しいことが出来る人材を求めていますが、そうはいってもまるっきり違う分野や領域で経験を積んできた人を採用する訳ではなく、やはり類似の経験を積んできていたり、プライベートなどで自己研鑽を積んできたポテンシャルの高い方を採用したいと思っています。

いま、情報はいくらでも収集出来ますし、時間と金さえ惜しまなければ、業務外でもかなりのことが経験できます。たまたま該当する業務の担当にならなかったから現時点では何もできません、でも御社に入ったら一所懸命に頑張ります、というのは、もはや通用しない時代になりました。

IT業界は動きが目まぐるしく、2016年もまたどんどん動いていくことになると思いますが、IT業界でいいポジションを取って生き抜いていくためには、情報のキャッチアップとともに、自己研鑽等を通じて、自分が出来ることの広さ(対応できる領域の広さ)と高さ(より上流、という意味での高さ)を作っていく必要があります。

これから年末年始を迎えますが、IT業界や企業の動きを押さえ、どういう人が今後は不要になってしまうのか、どういう人材が求められるようになるのかを冷静に考えて、自分の広さと高さを出すにはどうすればよいかをじっくり考えてみて頂ければと思います。

筆者 田中 祐介
コンサルタント実績
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