IT業界職種研究

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著者プロフィール

石黒 裕太郎
大手SIerで製造業向けのシステムインテグレーションを経験後、大手メーカにてIoTソリューションの企画、開発ディレクション、海外ビジネス推進等を実施。現在ではコンサルタントとして、日本を代表する大手企業へ向けたIoT提案の最前線で活躍している。

第1章:IoTとは

IoTの世界

IoTは今や世の中の色々な立場の方が必要とし、また多くの立場の方が「IoT」というキーワードを発しています。しかし実際のところは、IoTの必要性は何となく分かっているものの、IoTの実態が何で、それによって何が変化するのかイメージできない人が多いのではないかと思います。

今回の記事では、私がこれまでIoTに関わってきた経験からIoTがもたらす世界と、そこで必要な技術・スキル、将来動向などを、エンジニアの視点で記載をしてみたいと思います。その上で、まず本章ではIoTの全容、そしてIoTが与える社会的な変化を簡単に説明します。

IoTとは何か。

IoTとはInternet of thingsの略称です。直訳すると、「モノのインターネット」と訳されます。簡単に言うと、今まで繋がっていなかったセンサーや様々なデバイスをインターネットに接続することにより、新しい付加価値を利用者へ与えようという取り組みになります。

インターネットは過去にも、様々な社会活動や私たちの生活に大きなイノベーションをもたらしてきました。今や当たり前になったネットショッピングは、実際に店舗に行くことなく、24時間365日、好きな時に好きな商品を購入することができます。これは購入者自身がスマートフォンやパソコンを通じて、ネットショッピングサイトへ自分でアクセスし、購入したいものを自ら選択するという自発的な動作により成立する購買行為です。しかしここにIoTが入ると、さらにオートメーション化が進みます。

たとえば冷蔵庫の中に入っているものをセンサーにより自動的に画像判断し、野菜やドリンクなどの過不足から自動的にネットショッピングサイトで注文してくれる。または、不足しそうな段階で、ユーザに不足しそうなものをお知らせしてくれるという新たな価値提供も可能になります。冷蔵庫というデバイスの中に取り付けられたセンサー情報をもとに、ユーザが判断することなく、半自動的に商品の取り扱いを冷蔵庫(デバイス)が行ってくれるのです。

IoTがもたらす社会的な影響

IoTは様々な社会的構造や既存製品の枠を超えて、新しい付加価値を与えるテクノロジー、そして概念であると言われています。先ほど、”IoTとは何か。”という観点で、冷蔵庫の例を出しました。以下の図では、その内容が図式化されています。ここで注目して欲しいのが、「冷蔵庫の概念」です。

冷蔵庫の存在というのは、本来であれば生鮮食品を安全に保管する、ものを冷やすことが目的であると思います。(少なくとも、私はそうです。)この図の中にある、”IoT普及後の購買方法”の箇所を見てください。ここでは、冷蔵庫が自動的に庫内の状況を感知し、不足している商品などを購入者へ知らせるというフローが記載されています。当然、この機能はユーザが意識せずとも、冷蔵庫が自動で感知した不足商品リストから、何を買えば良いか判断することになります。これは本来、冷蔵庫が果たすべき役割の”生鮮食品を安全に保管する。”という枠組みを超え、ユーザが今、何を購入すべきかということを教えてくれるショッピングのサジェスチョン機能が付加されています。冷蔵庫の概念が、「食料品を冷やすもの」から「必要な食料品を揃えるもの」へと進化するのです。

このようにIoT化が進むと、既存の枠組みを超えた新しい機能や使用方法が生み出されます。(いわゆるイノベーションですね。)既存の枠組みを超えるには、製品を作っている会社(冷蔵庫であれば電機メーカ)が、今までとは少し異なった新しい使い方や機能を発掘していく、イノベーションを生み出していく必要があります。このような取り組みは社会的な構造などにも大きく変化をもたらすことでしょう。

IoTが密接に関わりを持つ業界

前項では、IoTが様々な社会的な構造や既存製品の枠を超え、新たな付加価値を与えるテクノロジー、(およびその概念)を指すということをお話ししました。このような概念ですから、IT企業に限らず様々な業界がIoTの事業発掘に力を注いでいます。

IoTの導入が進んでいる業界として、産業機器業界が挙げられます。ここでは2つの事例を挙げます。ある建設機械メーカでは、2015年から建設機械の遠隔監視、保守運行サービスを始めています。建設機械をインターネットに繋げて、油圧ショベルや各デバイスの状態をクラウド上に集約、データを可視化することにより、ユーザへ施工情報の一環として提供しています。また、某総合電機メーカでは、航空機エンジンへIoTサービスを適用しています。エンジンから取得した各種センサーデータをクラウド側のアプリケーションに送信。集約されたデータをクラウド上で分析し、どの部材が壊れているか、または壊れそうかということにあたりをつけ、到着する空港でメンテナンスをするというサービスを実施していこうとしています。

上記の例には、面白いトピックが2つあります。1点目は、参入障壁が高い業界の方がIoT化しやすいという点です。建設機械やジェットエンジンのIoTがビジネスとして成立している理由には、いずれも参入障壁が非常に高いという点があります。航空機エンジンでは、世界的にシェアが語れるメーカが3社程度しかなく、それを設計/製造するためのノウハウを得る事が難しく、囲い込みやすいという特徴があります。つまり、どのデバイスからどんなデータを取るかという設計自体も、実質的には特定のメーカでしかできず、IoT化もしやすいということではないかと考えています。

2点目は、「モノ」を製造しているメーカが「サービス」を販売する形態になったという点です。建設機械メーカでは、過去のビジネスモデルとして建設機械を販売し対価を得ていました。しかし、そのビジネスでは機械単体の価値のみしか得られません。メーカとしては「売り切り型のビジネスモデル」と言え、購入時にしかビジネスオポチュニティが発生しません。継続的にビジネスオポチュニティを発掘するためにも、建設機械から取得できるデータをユーザに販売、利活用してもらうことで新しいサービスをユーザへ販売するという「サービス」としてのビジネスモデルへ変革を図ったのです。

IoTを支援する業界

ここまでIoTの可能性と導入が進んでいる業界についてお話してきましたが、IoTは最終製品を作っているメーカだけの取り組みや影響が出る概念ではありません。本項では、IoTを支える業界をお話しようと思います。

IoTの大きな特徴としては、今までに取得できなかったデータを活用/提供することで、付加価値を生み出すということにあります。つまり、新たなデータを取得するためには、それだけのデータを記憶するための媒体(メモリー技術等)が必要になります。また、データをデバイス側で処理する、クラウド上にデータをあげるためのIC(集積回路)も必要になります。クラウドや分析技術に注目が集まりがちですが、むしろこのような半導体技術がなければ、IoTを実現することは難しいと考えます。当然かもしれませんが、各デバイスからデータを取得できなければ、サービスにもつながりません。

また、IoTでは「サービスの設計」も非常に重要な要素になると考えられます。収集されたデータそのものには意味が無く、また不要なデータばかり収集し、提供されたサービスは価値が無いものです。どのデータに価値があり、それをどのように活用してユーザに提供すれば良いのか。「サービス」の視点で設計出来るサービスオーナという人材もIoTを進めるために必要なタレントなのではないでしょうか。

今回は、IoTの全容、そして、IoTが与える社会的な変化について紹介しました。第2章では、IoTの実現を可能にするために必要な要素を紹介します。

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