ケンゾウの戦略コンサル物語

戦略コンサルタントの仕事やふだん考えていることなど、戦略コンサルタントの実態をありのまま綴ったコラム

筆者プロフィール

ケンゾウ
大学院修了後、メーカーでエンジニアとして勤務。その後、外資系の戦略コンサルティングファームに転職。幾多の苦労を重ねながらも、数年間をそのファームで過ごした後に卒業し、現在は投資ファンドで働いている。
第48話

御曹司のコンサル修行

「家業を継ぎます。」

こんにちは、ケンゾウです。戦略ファームはほぼ通年採用をしているため、毎月、月初になると、今月入社してくる新入社員(と言っても多くは中途入社)を歓迎するメールが、本人の簡単なプロフィール付きで全社員に届きます。また、月末になると、退職される方の門出を祝すメールが同様に全社員にメールで届きます。その時に、退職後にどんな会社に転職するのかが書かれていることもよくあります。

ある時ふと気がついたのですが、退職時の挨拶で「家業を継ぎます」と言う方が、意外に多いのです。正確に数えていないので感覚的な数字ですが、2〜3年に1人は家業を継ぐために退職していたような気がします。

ただ、一括りに「家業」といっても、その事業内容や規模は様々でした。誰もが知っている売上が数百億円ある地方の老舗メーカーであったり、サービス業として関東一円で事業展開していたり、都内である有名なショップを経営していたりと様々でした。

一昔前であれば、家業を継ぐ前にあえて他社で経験の積むといえば、同業や関連する業界の大企業で経験を積むパターンが王道で、あとは銀行で勤務するとか、場合によっては商社で勤務するといったところが多かったのではないかと思いますが、最近はコンサルティングファームも選択肢の一つになりつつあるのかもしれません。

コンサルティング経験と家業

それでは、コンサルティングファームでの経験は家業を継ぐ上でどのように役に立つのでしょうか?ここからは全くの私見となってしまいますが、いくつか挙げてみたいと思います。問題解決を始めとしたコンサルの手法やスキルも役に立つと思いますが、一つ大きいのは自分の中でモノサシが出来ることではないかと思います。

多くの場合、家業を継ぐ際に、先代が残した良い部分は残しつつも、同時に様々な課題を解決していく必要に迫られると思います。その際に、自分なりのモノサシがあると、どの部分は良くやれていて、どの部分はテコ入れが必要かを素早く判断でき、現場の声に惑わされず、やるべきことが自分の中でぶれなくなります。自分の中でモノサシを持つには、多くの企業の現場を見る経験を重ねて自分なりの基準を作っていく必要がありますので、この部分ではコンサルティングの経験が役に立つことでしょう。

また、もう一つあるなあと個人的に思っているのは、実はリクルーティングです。家業を継ぐにあたって、一人でやれることにはやはり限界があります。特に、家業の規模がある程度の大きさになってくると、改革をしていく上でも組織を動かす必要があります。そんなとき、頼りになる右腕やチームがいると、大きな力になるでしょう。社内にいる優秀な人材を集めてチームを組んでいくことも出来るかもしれませんが、やはりコンサル経験者同士だと意思疎通もスムーズで仕事が早いことも事実です。老舗企業の社内でコンサル経験者だけが浮いてしまわないような配慮は必要ですが、コンサル時代の同僚や部下から、一緒に改革を推進してくれそうな人材を見つけておければ、非常に心強いのではないでしょうか。

何故このようなことを書いているかというと、戦略ファーム卒業後のキャリアパスの一つとして、老舗企業に転職して創業家の次期社長を補佐する事例が最近ちらほら出てきているからです。日本でも戦略ファーム卒業生を上手く活用する事例が徐々に増えてきていますが、上記の例はまさに「参謀」として創業家を支えるケースと言えるでしょう。であれば、家業を継ぐ前に自分自身で戦略ファームに入って様々な経験を積み、同時に信頼できる仲間をそこで見つけるというのも悪くないかなあと思った次第です。

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