
- 筆者プロフィール: ケンゾウ
- 大学院修了後、メーカーでエンジニアとして勤務。その後、外資系の戦略コンサルティングファームに転職。幾多の苦労を重ねながらも、数年間をそのファームで過ごした後に卒業し、現在は投資ファンドで働いている。
第22話
突き抜ける瞬間
突き抜ける瞬間とは
こんにちは、ケンゾウです。戦略ファームで仕事をする上での喜びとして、自分自身が短期間で成長できることを挙げるコンサルタントは沢山います。今日は、コンサルタントとしての成長についてお話したいと思います。
では、戦略ファームのコンサルタントはどんな成長の仕方をするのでしょうか?もちろん個人差があり、一歩一歩着実に成長してくタイプの人もいれば、立ち上がりには時間がかかるものの、その後は目覚ましい成長を遂げる方もいます。
ただ、多くの同僚と話をしていると、皆それぞれ、突き抜けた瞬間というか、一皮むけた瞬間というか、自分の中で大きく成長したと思える瞬間があるようです。突き抜ける前と後では、コンサルタントの動き方が大きく変わってきます。突き抜ける前は、上司から指示を仰ぎ、上司に相談しながら作業を進めますが、突き抜けた後というのは、基本的に自分で考えて作業を組み立て、自律的に動くようになります。上司には、作業前に自分で考えた方針を説明し、作業後に結果を報告するようなかたちにかわってきます。また、突き抜けた後のコンサルタントというのは、初めて取り組むテーマであっても、自分なりに作業を組み立てて、一定水準以上のアウトプットを出せるようになります。つまり言葉を変えると、自分なりのバリューの出し方がわかっている状態になるとも言えます。
私自身が突き抜けた瞬間
私自身が初めて突き抜けたかなと思ったのは、入社して1年程経った時に行った新規事業立案のプロジェクトでした。このテーマは「新規事業」なので、どんな事業を提案してもOKなところがあって自由度が高い一方で、絶対的な正解が無い。そのため、クライアント社内で誰かが反対すると、なかなか決まらないという側面もありました。クライアントがトップダウンで意思決定出来るのであれば、トップと握ってしまえば話は早いのですが、日本の大企業の場合はそうでない会社も多く、当時のクライアントもトップダウンではありませんでした。
このプロジェクトにおいては、発注者である専務はもちろんキーパーソンなのですが、他にも事業部長や部長だけでなく、何故か隣の組織の理事に影響力があったり、課長クラスの方でも社内で一目置かれている方がいたりと、事前に押さえておくべき方があちこちに分散している状況でした。ちなみに誰がキーマンかと言うのも、プロジェクト中のインタビューを通じて徐々に見極めていったような状況でした。最終的にはひと通りキーマンから新規事業の案について合意を取り付けて、プロジェクトは無事に最終報告を終えることが出来たのですが、このプロジェクトをリーダーとしてやりきった経験は、自分の中では非常に大きなブレイクスルーとなりました。
というのも、私はこれまで、事前にワークプランをきちんと設計し、分析をしながらファクトを積み上げて打ち手を導き出すようなかちっとしたプロジェクトは得意だったのですが、今回のように、どうやってプロジェクトを着地させようか(合意形成を図ろうか)と走りながら考えるようなタイプの仕事は得意ではなかったのです。こういうプロジェクトでは、納期が迫ってくる中で、試行錯誤しながら作業方針を決めていくため、途中で「このままやって納期までに着地できるんだろうか?」という気持ち悪さが常につきまといます。この気持ち悪さが耐えられないコンサルタントは、徐々に精神的に辛くなってくるのです。
また、新規事業のような絶対的な正解がないテーマでは、「自分はこの案が正しい」という信念を持っていないと、クライアントに見透かされてしまいます。自分の案をゴリ押しで通さないといけないという意味ではなく、少なくとも信念を持てるくらい考え、調査し、自分で納得しておかないと、クライアントには納得してもらえないということです。そのためには、事前にどのくらいの深さまで準備しておくかというレベル感も自分の中で見えてきました。
このプロジェクトを通して、自分としては、リーダーとして現場をリードするスキルに加え、タスクがかっちり決まっていない柔らかいテーマのプロジェクトでも何とかやれるという自信がつき、自分のスキルの幅が大きく広がったという実感が持てるようになったのでした。
(次回につづく)
バックナンバー
- 第60話 広がるポストコンサルの活躍の場
- 第59話 コンサルを使いこなす(その2)
- 第58話 コンサルを使いこなす(その1)
- 第57話 医者の不養生(コンサルタント編)
- 第56話 仮説思考のコツ
- 第55話 経営=サイエンス×アート
- 第54話 他コンサルから戦略コンサルへの転身
- 第53話 ファスト・トラッカー
- 第52話 圧迫面接って必要?
- 第51話 人気のプロジェクト
- 第50話 コンサルタントが改革したい会社...(その2)
- 第49話 コンサルタントが改革したい会社...(その1)
- 第48話 御曹司のコンサル修行
- 第47話 真逆の戦略で攻める!
- 第46話 アンケートの落とし穴
- 第45話 ナチュラルハイ
- 第44話 ホワイトボードを制するものは...(その2)
- 第43話 ホワイトボードを制するものは...(その1)
- 第42話 キー・スライド:究極の1枚
- 第41話 臨界点に達したか?
- 第40話 他人と違うところを探そう
- 第39話 さかなクンにみる差別化戦略
- 第38話 持つべきは信頼できるエージェント(その2)
- 第37話 持つべきは信頼できるエージェント(その1)
- 第36話 コンサルタントと起業家の違い
- 第35話 経営者には鈍感力が必要?
- 第34話 コンサルは経営者へのステップか?
- 第33話 コンサル会社は役に立たない?
- 第32話 罵倒されることでバリューを出す(その2)
- 第31話 罵倒されることでバリューを出す(その1)
- 第30話 なぜコンサル会社を使うのか?(その2)
- 第29話 なぜコンサル会社を使うのか?(その1)
- 第28話 使えるものは使い倒す
- 第27話 上司のマネジメント
- 第26話 自分の勝ちパターンを見つける
- 第25話 英語力はどれくらい必要?
- 第24話 エンジニアとコンサルの関係
- 第23話 コンサルはモラトリアム?
- 第22話 突き抜ける瞬間
- 第21話 コンサルは言いっぱなし?
- 第20話 オープンすぎる職場環境
- 第19話 戦略ファームの入社面接(その2)
- 第18話 戦略ファームの入社面接(その1)
- 第17話 戦略ファームへの入り方(MBA編)
- 第16話 戦略ファームへの入り方(中途編)
- 第15話 戦略ファームへの入り方(新卒編)
- 第14話 ヘッドハンターから声がかかる
- 第13話 よく働くのはどの国か
- 第12話 M系男子は戦略ファーム向き?
- 第11話 在職期間とその後のキャリアについて...
- 第10話 在職期間とその後のキャリアについて...
- 第9話 戦略ファームの社員旅行
- 第8話 アップ・オア・アウト
- 第7話 恋愛における問題解決スキル
- 第6話 コンサルタントは出世魚?(その2)
- 第5話 コンサルタントは出世魚?(その1)
- 第4話 戦略ファームでのワークライフ・バランス
- 第3話 衝撃の初プロジェクト(その2)
- 第2話 衝撃の初プロジェクト(その1)
- 第1話 戦略コンサルの実態を語ります!