ITプロフェッショナル対談

注目企業の現場に聞く。IT業界経験者のリーベルのコンサルタントが、業界経験者ならではの切り口でキーパーソンにインタビューし、その核心に迫ります。

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デロイト トーマツ サイバー合同会社(DTCY) 自動車セキュリティ(後編)

自動車セキュリティ未経験者がコンサルタントとして活躍するには?業界のトップランナーがキャッチアップの秘訣を公開!

デロイト トーマツ サイバー合同会社(DTCY)の自動車セキュリティ部隊を率いるシニアマネジャーの高橋宏之氏に、リーベルのコンサルタントが迫る対談。最終回となる後編では、これまで自動車セキュリティに関わっていなかった人がこの分野のコンサルタントとして活躍するには、どのようにキャッチアップしていけばいいかを中心に訊いていく。今後、同社の自動車セキュリティ部隊に転職してバリバリ仕事をしたいと希望する人は、そのために今、自分に何が必要かをはっきり認識できるだろう。

プロフィール

デロイト トーマツ サイバー合同会社(DTCY)
シニアマネジャー
高橋 宏之 氏
国内SI企業で省庁関連の大規模システム開発やERP製品導入を経験後、デロイトトーマツコンサルティングに入社し、ビジネスプロセス改善やCIO向けアドバイザリー業務に従事。デロイトトーマツリスクサービス(現デロイト トーマツ サイバー(DTCY))に転籍後は、セキュリティ全般のコンサルティング業務に従事。近年は、自動車業界向けのセキュリティ管理に係るエキスパートとして、情報システム領域および自動車セキュリティ領域に関する様々なコンサルティング案件に関与。

キャッチアップにはどんなことが有効?

リーベル:現在、DTCYの自動車セキュリティ部隊には、コンサルタント系、IT系、車の開発に関わっていたエンジニア系の方々がいらっしゃるというお話でしたが、いずれにしても、これまで車のセキュリティを全くやっていなかった人が、御社に入ってキャッチアップをしていこうとすると、どんなことが求められるのでしょう?

高橋氏:バックグラウンドごとにお話をしたほうがいいですよね。例えば自動車業界のエンジニア経験がある人は、ISO26262のような自動車の機能安全の規格については理解していると思うんです。機能安全というのは「安全に動作させる仕組み」で、セキュリティと共通するところがかなりありますから、応用が効くと思います。そういう人には、機能安全の知識をベースにした上で、マルウエアプロテクションやプライバシー保護みたいな、情報セキュリティの個別の知識を押さえていってほしいですね。

リーベル:なるほど。それはかなり入り込みやすそうですね。

高橋氏:ただですね…。エンジニア出身者の場合、おしなべてプレゼンテーションスキルが低いという欠点がありがちなんですよね。設計書とか、フォーマットの決まった資料を作成することはできるんですが、ストーリーを相手にわかりやすく伝える、という点についてはやや難のある人が多い。プレゼンの時、淡々とお経を読んでいるような…

リーベル:ははは! お経ですか。

高橋氏:なので、そのあたりも意識して学んでいってほしいですね。

リーベル:コンサル系出身の方はどうでしょう?

高橋氏:コンサル系の人は、私もそうでしたが、当然、整理・読解力やプレゼンのスキルはバリバリなんですが、とにかく車のことがわからない。

リーベル:まあ、そうですよね。

高橋氏:車のことがわからないし、セキュリティについてもわからない。そういう人にはとにかく愚直に知識を身につけてもらうしかないですよね。コンサルをやってきた人というのは、結構打たれ強いし、地頭も悪くないと思うので、そこを活かして努力をしてほしい。また、コンサル系の人は、似たようなものや共通項を類推・類比して探し当てる「アナロジー思考」も身についているでしょう。この業界とこの業界はここが似ているな、みたいな。それを効かせると、キャッチアップも早いのではないかと思います。

リーベル:では、IT系の人は?

高橋氏:ITの地盤はあるためその点は優位ですが、車やセキュリティ、コンサルとしてのスキル(読む/考える/書く)について多くを学ばないといけないので、結構大変かもしれません。ただし、ITでも開発の上流工程の経験やPM/PMO経験が豊富な方は、“全体最適”やクライアントとの折衝という点で、コンサル経験を積んでいらっしゃる人もいるかと思いますので、そういったバックグラウンドの有無を確認させてもらっています。

リーベル:確かにそうなりますよね。車においてもITは必須のためその点の応用は利いても、そもそも話すのが苦手な方もいらっしゃいますし、車とセキュリティについては当然学ばないと行けませんね。その熱意が必要だと思います。

高橋氏:はい、最後はパッションです(笑)。

「アナロジー思考」ができる人は大歓迎

リーベル:あくまで参考までにですが、コンサル系やエンジニア系の人を含め、例えば、どんな本を読んだほうがいいとか、この資格の勉強をしたほうがいいとか、目安になるものがあれば教えていただけますか?

高橋氏:なかなかひと口には言えませんが、例えばコンサル系の人だったら、コンサル関連の本はたくさん読んでいると思うので、車関係の雑誌や情報サイトをチェックするとか。自動車セキュリティについてもWebサイトにいろいろ情報が出ているので、アンテナを立ててほしいですよね。私は最近あるキュレーションアプリをスマホに入れて、自動車関連のキーワードを登録し、自動車業界の最新ニュースをタイムリーに入手できるようにしています。

リーベル:参考になります。

高橋氏:逆にエンジニア系の人には、コンサルティングのイロハやテクニックの本をたくさん読んでほしいです。弊社ではエンジニア系の方に内定を出すと、「まずは、これらの書籍で自己学習しましょう」と課題図書を出しているんです。

リーベル:あ、課題図書があるんですね。

高橋氏:ええ。で、IT系の人については、今挙げたような、自動車関係の勉強と、コンサルティング関係の勉強、両方をしっかりしてほしい。

リーベル:そうなりますよね。

高橋氏:ただですね、正直、キャッチアップは入社してからでもどうにでもなると思うんです。コンサルワークは、地頭力とパッション、この2つがあればたいていのことができるようになる。私自身、DTRSに転籍したのは数年前ですが、1年後くらいには、プロフェッショナルとしての自信をだいぶ“掴んだ”感じになりましたから。

リーベル:それはすごいですね!

高橋氏:先ほど「アナロジー思考」の話をしましたが、それを効かせれば、自分の経験から類推して本質論で語る、ということは誰でも出来ます。そういうことができる人は大歓迎ですね。

英語力は当然、あるに越したことはない

リーベル:もう1つ、英語はどうなんでしょう? 御社自体も、自動車業界も、グローバルな世界なので、英語は必須かなとも思うのですが、どれくらいできれば理想なのか、あるいはできなくても入社後のキャッチアップでなんとかなるのか知りたいのですが。

高橋氏:英語力は非常に重要です。英語ができなければ絶対ダメとまでは言いませんが、英語力の高い人材を採用したいという意向はあります。
ただ、地頭力とパッションがあって、さらに何かキラリと光るようなものがある方だったら、英語力にかかわらず採用することはあります。そういう方は、英語の習得も、本腰を入れて取り組めば早いでしょうから。
大事なのは、要するにやる気ですよね。誤解してほしくないのは、やる気はみんなあるじゃないですか? 私が言うやる気というのは、主体性のことなんです。上からの指示を待つのではなく、自分なりに方策を見つけて、何とか解決してやろうと提案型で動ける。そこを求めています。繰り返しになりますが、“地頭力”です。

リーベル:なるほど。さらに英語の話だと、結構英語ができる人と転職の面談をすると、「実際海外にどれくらい行くんですか?」とか「行けるチャンスはあるんですか?」みたいなことを訊かれることも多いのですが、そのあたりはいかがでしょう?

高橋氏:現状、お客様は日本企業が主ですが、そのケースでは普段お客様と接する時に英語を使うということはあまりありません。ただし、お客様に対して、デロイトとしてのバリューを出す上では、デロイト内部の北米やドイツなどのメンバーと連携して仕事をする、ということになるので、そうなるとやはり英語は使いますよね。また、外資系の企業がお客様の時には、基本、日本法人を相手にしながらも、最後は英語で報告書をまとめなくてはならないこともありますし。あと、調査案件はグローバルなので、英語は必須になります。

リーベル:なるほど。お客様にもよるし、案件にもよると。

高橋氏:ただし、海外に行く機会は豊富にありますよ。会社の空気的にも「行け、行け」と言われます。北米や欧州に案件ベースで出張するのはもちろん、自動車やセキュリティ関連の学会やシンポジウムにも積極的に参加しています。行かないと温度感がわからないですからね。

リーベル:英語を使って仕事がしたいという人にはもってこいの環境ですね。

入社したらどこでどのように仕事をする?

リーベル:実際に転職希望者の方が御社に入社したら、どこでどのように仕事をすることになるのでしょう? クライアントの拠点に常駐することになるのか、あるいはDTCYの社内で仕事をすることが主なのか? 非常に初歩的な話ですが、結構気にされる方が多いので。

高橋氏:あくまで案件によりますので一概には言えませんが、現状はどちらかというと社内で仕事をすることが多いです。お客様の元に行き、課題を持ち帰り、いろいろ考えたものを週1回などのミーティングでぶつける、というスタイルですね。常駐案件もありますが、ケースバイケースです。

リーベル:現状、ガバナンスなどが主な案件ということもあるでしょうしね。一方、今後テクニカルな案件が増えてくると、常駐になるケースも出てくるのでは?

高橋氏:将来的には確かにそうかもしれません。今も、実際の車を使ったペネトレーション(侵入)テストみたいなものを行っていますが、それをやるには専用のサーキットや電波暗室などを借りて、ということになる。社内でペーパーワークをするだけでなく、常駐ではないまでも、より頻繁にお客様の環境における設備に通ってテストを行うようなことは増えるでしょうね。

車を軸に様々な業界にイノベーションを起こしたい人と共に働きたい

リーベル:DTCYの自動車セキュリティ部隊の、今後の展望をお話し願えますか?

高橋氏:やはりまずは組織拡大ですね。今はまだ主要3拠点の中では一番人数も少ないですから。さらに現状、ガバナンス関連の案件が相対的に多くはありますが、自動車セキュリティの仕事って、もちろんそれだけじゃないんです。脆弱性検査やペネトレーションテスト等も含めた自動車内部のセキュリティもそうですし、さらには製造現場(工場・生産制御)のセキュリティもひっくるめて、トータルでやっていきたいという思いがあるので。それには相応の体制が必要です。

自動車の製品開発プロセスとそれに付随するセキュリティプロセス

リーベル:それでは最後になりますが、今後、DTCYの自動車セキュリティ部隊に入って頑張っていきたい、という人に、メッセージをいただけますか?

高橋氏:突き詰めると、とにかく楽しく仕事をやりたい、という人にいらしてほしいんですよね。残業で嫌々やるというのではなくて、仕事に夢中になっていて、「あれ? 気がついたらこんな時間? 今日もすごく楽しかったな」みたいな。こんなことを言うのはご時世的に良くないのかもしれないですが…

リーベル:いえいえ、わかります。労働時間どうこうでなく、「時間を忘れて仕事に夢中になる、没頭する」みたいな感覚が好きな人、ということですよね。

高橋氏:そうです。みんなでディスカッションをしている、頭を使って考えている、それが楽しくて、いつの間にか時間がたっていた、みたいな感覚ですね。とはいえ、何はさておき心身ともに健康であることが一番大事ですから、ワークライフバランスは必須ですね。

リーベル:よく分かります。

高橋氏:さらには、自動車を軸足に、いろいろな提案をしていきたいと思っているんです。例えば電力とか。電気自動車だと、電力も絡みますからね。あとは航空業界なども、セキュリティの考え方は自動車に通じるところがある。「車の自動運転ではこういう形の連携をしている。だから飛行機もこうなるべきじゃないですか?」みたいな提案もできると思うんです。

リーベル:なるほど、なるほど。

高橋氏:そんなふうに、車がゴールではなく、車を軸にして、そこで得たノウハウを使って、いろいろな業界にイノベーションを起こしていきたい、という気概のある人と、ぜひ一緒に仕事をしたいなと思いますね。

リーベル:そういうキャリアの広がりもあり得るということですね。それもまたすごく魅力的ですね。非常によくわかりました。本日は長時間、ありがとうございました!

高橋氏:こちらこそ楽しかったです。ありがとうございました!

ライター プロフィール

荒濱 一(あらはま・はじめ)
1971年、東京生まれ。上智大学文学部教育学科卒。高校教諭、タイ・インドでの広告代理店勤務を経て、1998年からライターとして活動を開始する。現在、ビジネス(特に人材・起業)、IT/デジタル機器、著名人インタビューなど幅広い分野で記事を執筆するほか、広告コピー分野でも活躍。
◇主な著書
『新版 結局「仕組み」を作った人が勝っている』(光文社)(高橋学氏との共著)
『新版 やっぱり「仕組み」を作った人が勝っている』(光文社)(高橋学氏との共著)
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